――気虚タイプの私って、舌までお疲れモード?
朝の光がカーテンのすき間から差し込む。
柚葉は、カラのマグカップを片手に、洗面台の前でぼんやり立っていた。
「うーん、なんか口の中が重たい……昨日、夜中のポテチ+カフェオレのコンボが効いてるな」
顔を洗おうとして、ふと鏡の中の自分に目が止まる。
なんとなく顔がむくんでいる。気になって、試しに“べーっ”と舌を出してみた。
「……え、なんか白くて厚い! しかも、歯の跡ついてる!? え、これ舌がむくんでるってこと?」
舌の表面には、白くふんわりとした苔。全体にぼてっとして、輪郭には小さな波のような跡。
思わずスマホを取り出し、検索する。
『舌は身体の鏡。白く厚い舌は“気虚”のサイン。
体が冷え、エネルギーが不足している状態です。』
「……え、鏡どころかバロメーター!? 私、まさか舌まで疲れてるの?」
そうつぶやいた瞬間、視界がふっと歪んだ。
気がつくと、柚葉は薄暗い空間に立っていた。
足元には水たまり、空気はじめじめ。息をするたびに重たい。
「……ここ、体内世界? 今日のテーマは湿気?」
前方で、脾が大きな器を抱えて座り込んでいた。顔は青白く、肩が落ちている。
「……ごめんなさい。食べ物を力に変えたいのに、“気”が足りなくて……動けないの。」
脾の器の中は、半分どろどろのまま。
その隣で、腎が力なく呟く。
「冷えで水が流れなくなってる……。温かいエネルギーが足りないんだ。」
柚葉は青ざめた。
「え、つまり私の中、暖房壊れてる!?」
すると――ぬめった声が響いた。
「ヌメ〜〜、重〜くしてやるぅ〜!」
ぬらりとした緑色の影が現れる。体は水あめのようにとろけ、足跡から水が滲む。
「うわっ、出た! もしかして“湿邪(しつじゃ)”!?」
肝がすかさず言った。
「そうだ。気が弱ると、こいつが入り込む。体を冷やし、だるくして、胃の動きを止めるんだ!」
湿邪はゲラゲラ笑う。
「お前の舌も、ぼってり白くしてやるぅ〜!」
そのとき、天井から小さな黄金色の粒がふわりと降り注いだ。
「……これは、かぼちゃ?」
脾が顔を上げる。
「そう。かぼちゃは“気”を補って体を温める。弱った私にぴったり……!」
続いて、透明な白い粒がサラサラと舞い降りる。
「はとむぎだ!」
腎がうなずく。
「余分な水を取り除いて、流れを助けてくれる。」
湿邪は慌てふためく。
「やめろ〜! カラッとされるの苦手なんだよぉ〜!」
そこへ、甘い香りの光がふわりと漂う。
「……はちみつ?」
心が微笑む。
「はちみつは気を養い、体をやさしく温めてくれる。冷えた“脾”を包み込む力があるの。」
三つの光が合わさり、空間が明るく照らされた。
湿邪はみるみる縮み、最後は“ポチャン”と小さな水滴になって消えていった。
脾は器を抱え直し、表情に血色が戻る。
「ありがとう……これで、食べたものを力に変えられる。」
腎も微笑んだ。
「水の流れが戻った。冷えがほどけてきたよ。」
柚葉は胸をなでおろす。
「……なるほど。白く厚い舌って、冷えて“気”が足りないサインだったんだ。」
心がうなずく。
「疲れや夜更かし、冷たいもののとりすぎも原因だよ。温かくして、よく眠ることが大事。」
柚葉は苦笑した。
「つまり“夜食+冷たいカフェオレ=舌が肥満”ってことね。
……明日から“温スープ+早寝チャレンジ”にしよ。」
ふっと景色が揺れ、柚葉は自分の部屋に戻っていた。
鏡に映る舌は、さっきよりも薄く、ほんのりピンク色。
冷蔵庫を開けると、昨夜バイト先の先輩が「もう食べないからあげる」と押しつけてきた「はとむぎとかぼちゃの温スープ」のタッパーが入っていた。
「……あ、これ、まさに今日の救世主?」
電子レンジで温め、一口すすると、やさしい甘みが体に染みていく。
「……うん、胃があったかい。これ、舌にも効くかも。」
柚葉は微笑み、スプーンを置いた。
「べーって出すだけで体調わかるなら、明日は“薄ピンク優等舌”でいこう。」
