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第56話 牛肉とぶどう
牛肉とぶどうと整う筋肉 夕方の《喫茶つむぎ》は、静かな光がゆっくりと店の奥へ伸びてくる時間だった。 窓際の席にはまだ明るさが残っているのに、カウンターの内側だけが、少し先に夜の気配をまといはじめている。 私はグラスを磨きながら、入口のベルが... -
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第55話 ハスの実
ハスの実と水面の記憶 朝の《喫茶つむぎ》は、まだ人の少ない時間だった。通りの音もまばらで、店の中には湯気と包丁の音だけがある。 私は、炊きあがったごはんの鍋を開けた。湯気の中に、白い粒がいくつも混じっている。 ハスの実。 つむぎさんが、朝い... -
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第54話 菜の花
菜の花と春の訪れ 午後の《喫茶つむぎ》は、静かだった。客席には誰もいない。窓の外だけが、ゆっくりと季節を進めている。 カウンターの上に、小さな紙袋が置かれていた。中から、鮮やかな黄色がのぞく。 「……菜の花」 朝、常連の人が置いていったものだ... -
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第53話 鶏そぼろ
鶏そぼろと朝を迎える夜 今夜の《喫茶つむぎ》は、蓮の3弦ギターがBGMを奏でていた。ポップなメロディーが、夜の店には少し明るすぎる気がする。あんずはそう思いながら、コーヒー豆を補充していた。 ベルが鳴る。 「……こんばんは」 入ってきたのは、見慣... -
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第52話 アサリとセロリ
アサリとセロリと心の声 夕方の《喫茶つむぎ》は、外の空気がまだざわついているのに、店内だけが少し遅れて静まっていく時間だった。昼と夜のあいだ。頭の中だけが、先に疲れてしまう時間帯。 私はカウンターでグラスを拭きながら、ドアの方を気にしてい... -
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第51話 果実と気分が上がる午後
果実と気分が上がる午後 午後の《喫茶つむぎ》は、静かだけれど、沈んではいない時間だった。昼の慌ただしさが引き、夕方にはまだ早い。窓から差し込む光が、テーブルの縁をやわらかくなぞっている。 私はカウンターの中で、器を拭いていた。今日は、体調... -
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第50話 れんこん
れんこんと削れない夜 夕方の《喫茶つむぎ》は、外の光がゆっくり色を変えていく時間だった。窓際の席にはまだ明るさが残っているのに、店の奥は少しずつ夜の気配をまとっていく。 私はカウンターでカップを拭きながら、入口のフライヤー置き場を整えてい... -
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第49話 もち米
もち米と羽を休める粥 夕方の《喫茶つむぎ》は、日が傾くにつれて静けさが深まっていく時間だった。窓際の席にはまだ光が残り、店内には鍋の余熱と、かすかな湯気が漂っている。 「……よっこいしょ」 少し大げさな声と一緒に、ひとりの女性が腰を下ろした。... -
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第48話 桃
桃の温度と消えかけた火 夕方の《喫茶つむぎ》は、昼の名残と夜の気配が混ざり合う時間だった。カウンターの上には湯気の立つポット。外はまだ明るいのに、足元から少し冷えが忍び寄ってくる。 私はカップを拭きながら、店の奥に流れる静けさを確かめてい... -
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第47話 ルイボス
ルイボスと放課後のセレナーデ 放課後の《喫茶つむぎ》は、昼と夜のあいだの、少し輪郭のぼやけた時間だった。窓の外にはまだ明るさが残り、店内には学生の気配がまばらに混じっている。 ベルが鳴って、ムーを小脇に抱えた由衣ちゃんが入ってきた。 「こん...