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第60話 レモン
レモンと初夏の風 初夏の風が、店の暖簾をゆっくり揺らしていた。 《喫茶つむぎ》の扉は少し開けられていて、外の空気が静かに入り込んでくる。 今日は少し暑い。 カウンター席では、由衣ちゃんが楽しそうに話していた。 「これね、作ってみたの」 小さな... -
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第59話 花椒
花椒と火を止めてから 午後の《喫茶つむぎ》は、静かな光に包まれていた。窓際の影がゆっくり伸び、湯気だけが時間を知らせている。 私は仕込みの合間にレシピ帳を開いていた。 破れたページの後ろに挟まれた紙片。そこに書かれているのは、短い一行。 ――... -
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第58話 ジャスミン
ジャスミンと残った香り 朝の《喫茶つむぎ》は、まだ客の気配がない。湯気だけが、店の中でゆっくり動いている。 私はカウンターの上で、ジャスミンの茶葉を広げていた。指で触れると、かすかに甘い香りが立つ。 つむぎさんは奥で湯を沸かしている。いつも... -
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第57話 豚足
豚足と甘い匂い 朝の仕込みの時間は、店がいちばん静かだ。客の気配も、通りの足音もまだ遠い。火を入れる音と、水の流れる音だけが、店の中をゆっくり満たしていく。 私はまな板の上で、生姜を細く刻んでいた。その横では、つむぎさんが鍋を用意している... -
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第56話 牛肉とぶどう
牛肉とぶどうと整う筋肉 夕方の《喫茶つむぎ》は、静かな光がゆっくりと店の奥へ伸びてくる時間だった。 窓際の席にはまだ明るさが残っているのに、カウンターの内側だけが、少し先に夜の気配をまといはじめている。 私はグラスを磨きながら、入口のベルが... -
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第55話 ハスの実
ハスの実と水面の記憶 朝の《喫茶つむぎ》は、まだ人の少ない時間だった。通りの音もまばらで、店の中には湯気と包丁の音だけがある。 私は、炊きあがったごはんの鍋を開けた。湯気の中に、白い粒がいくつも混じっている。 ハスの実。 つむぎさんが、朝い... -
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第54話 菜の花
菜の花と春の訪れ 午後の《喫茶つむぎ》は、静かだった。客席には誰もいない。窓の外だけが、ゆっくりと季節を進めている。 カウンターの上に、小さな紙袋が置かれていた。中から、鮮やかな黄色がのぞく。 「……菜の花」 朝、常連の人が置いていったものだ... -
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第53話 鶏そぼろ
鶏そぼろと朝を迎える夜 今夜の《喫茶つむぎ》は、蓮の3弦ギターがBGMを奏でていた。ポップなメロディーが、夜の店には少し明るすぎる気がする。あんずはそう思いながら、コーヒー豆を補充していた。 ベルが鳴る。 「……こんばんは」 入ってきたのは、見慣... -
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第52話 アサリとセロリ
アサリとセロリと心の声 夕方の《喫茶つむぎ》は、外の空気がまだざわついているのに、店内だけが少し遅れて静まっていく時間だった。昼と夜のあいだ。頭の中だけが、先に疲れてしまう時間帯。 私はカウンターでグラスを拭きながら、ドアの方を気にしてい... -
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第51話 果実と気分が上がる午後
果実と気分が上がる午後 午後の《喫茶つむぎ》は、静かだけれど、沈んではいない時間だった。昼の慌ただしさが引き、夕方にはまだ早い。窓から差し込む光が、テーブルの縁をやわらかくなぞっている。 私はカウンターの中で、器を拭いていた。今日は、体調...