第6話 むくみ迷宮で水路大混乱(むくみ編)

朝のアラームがけたたましく鳴った。
柚葉はスマホを枕元で探りながら、重たいまぶたをこじ開ける。

「……うわ、顔パンッパン」

鏡をのぞき込んで、思わずのけぞった。
まぶたは腫れぼったく、頬もふくらんで輪郭がぼやけている。昨日の夜、ゼミの発表準備で夜更かししたうえに、コンビニでポテチとカップ麺を平らげたのが祟ったのだろう。

「え、これ私の顔? 整形アプリの失敗加工みたいなんだけど!」

制服のブラウスのボタンを留めようとすると、首回りまで窮屈に感じる。足元に視線を落とせば、靴下のゴム跡がクッキリ残っている。

「うわぁ……完全に“むくみ案件”……」

髪をまとめながら、ため息をつく。体が鉛みたいに重くて、エンジンがかからない。

(寝不足と塩分過多って、ここまでくるんだ……。これで一日持つの?)

化粧ポーチを広げ、コンシーラーで顔を必死にごまかす。だけど鏡の中の自分は、どこかぼんやりして生気がない。

「もう……朝から水風船持ち歩いてるみたいな気分……」

呟いた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
足元が崩れ、柚葉は暗い迷路の中に立っていた。

そこはじめじめとした「むくみ迷宮」。
壁は水を吸ったスポンジのようにぐっしょり濡れていて、床を踏みしめるたびにジュクッと音が鳴る。湿気が立ちこめ、空気は重く、喉まで水気で詰まるようだ。

「なにこれ……梅雨の部屋干し部屋かよ……カビる五秒前!」

鼻をつまみながら歩を進めると、中央で脾が膝をついていた。大きな器を抱え込み、肩で息をしている。

「ごめんなさい……水湿が体にたまりすぎて、食べ物を力に変える余裕が……ない」

脾の足元には、濁った水が池のように広がっていた。

さらに奥から、青い衣をまとった腎が姿を現す。目の下に影を落とし、肩は重く垂れている。

「水をつかさどる私の力が弱く……本来なら下へ流すはずの水を動かせないんだ」

二人の言葉に柚葉は青ざめた。

「え、つまり……私の体内、排水設備ぶっ壊れて下水逆流中ってこと!?」

その時だった。

「ヌメヌメぷるぷる〜、重〜くしてやるぅ!」

ぬめった声とともに、迷宮の壁から緑がかった怪物がにゅるりと這い出してきた。
頭は海藻のようにボサボサ、体はゼリーの塊。歩くたびに水たまりができる。

柚葉は慌てて叫ぶ。
「なにあれ!? ヌルヌルした外邪!?」

肺が横から冷静に補足する。
「湿邪だ。外から侵入し、体を重くして水の巡りを妨げる」

怪物は得意げに両手を広げた。
「そうだぷるぅ〜。お前の体をヌメヌメにして、動きを重くするのが俺の趣味! 水路なんて詰まらせてナンボ!」

湿邪は脾の器にベチャッと張りつき、腎の足を泥のように絡めとる。
二人の動きはさらに鈍り、濁流があふれ出した。

「やめろ〜! 私、今日ゼミあるんだから! このままじゃ顔パンパンで“むくみ芸人”デビューしちゃうじゃん!」

必死に叫ぶ柚葉の背後から、剣を携えた肝が現れた。
だが刃は湿気で錆びつき、まともに振り下ろせない。

「通路が湿気でぬかるんで……剣が巡らん!」

「いや完全にダンジョンのデバフだよ! 湿度MAXの嫌がらせ仕様か!」

柚葉は頭を抱える。
体内世界は完全に「水浸しブラック迷宮」と化していた。

その時だった。

頭上から白い粒がサラサラと降り注いだ。雨粒のようにきらめきながら、濁流を吸い取っていく。

「これ……はとむぎ?」

脾が顔を上げる。
「そう……はとむぎは水分をさばき、余分な湿を取り去る。私を助けてくれる……」

次に、赤い小さな粒がぽとぽと落ち、地面から芽を出した。

「小豆……!」

腎が目を見開く。
「利水の力がある。むくみを追い出して、水の流れを取り戻す」

迷宮のぬかるみが少しずつ乾いていく。

さらに、透明な果肉をもつ冬瓜がふわりと舞い降り、冷ややかな光を放った。
肺の声が響いた。
「冬瓜は熱をさまし、水を流してくれる」

湿邪はバシャバシャともがく。
「やめろぉぉ! 俺様のヌメヌメ迷宮がカラカラになっちゃう〜!」

最後に、柚葉の足元に温かい風が吹いた。

「これ……生姜?」

肝が頷く。
「そうだ。巡りを温め、停滞を解く。湿に阻まれた剣を動かせる!」

剣が再び光を帯び、湿邪の体を裂いた。

「ぎゃあああ! 乾く〜! 俺様のぷるぷるがぁぁ!」

湿邪は崩れ落ち、迷宮の濁流も静かに引いていった。

脾は器を抱え直し、顔色が戻っていく。
「これで食べ物を力に変えられる……」

腎も静かに息をつき、肩の重みを下ろした。
「水路が開けば、下へ流せる」

肝は剣を収め、胸を張った。
「通路が乾いた。巡りを取り戻せる」

柚葉はその場に座り込み、深呼吸した。
「なるほど……むくみって、体内迷宮に湿邪が乱入してたせいだったんだ」

迷宮の景色がふっと揺れ、気づけば自分の部屋に戻っていた。

鏡を見ると、まだ少し顔は腫れぼったい。けれど、さっきよりはスッキリしている気がする。

冷蔵庫を開けると、昨夜バイト先の先輩が「いらないから食べて」と押し付けてきた「小豆と冬瓜スープ」のタッパーが入っていた。
レンジで温め、一口すすると、優しい甘みと涼やかさが体に染み込んでいく。

「……これ、スッとする。アプリ加工より自然な補正かも」

柚葉は軽く笑い、コートを羽織った。
外はまだ冬の冷たい風。けれど胸の奥は、少しだけ軽やかになっていた。

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国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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