第3話 こたつでも冷えるとか、私って内臓ブラック氷河期?(冷え編)

柚葉はこたつに足を突っ込みながら、顔だけ出してぐでーっとしていた。
冬の夜。外は氷点下近いはずなのに、室内は電気代節約のためにエアコンを切っている。唯一の希望は、赤く光るこたつだけ――のはずだった。

「……おかしい。足、全然あったまらないんだけど」

もぞもぞ動かしても、つま先が氷みたいに冷たい。
ふくらはぎから下は、こたつの中なのに冷蔵庫の中並みに冷え切っていた。

鏡を見ると顔色も青白い。バイト先では「ファンデの色合ってなくない?」と心配される始末。

「いやこれ、ファンデのせいじゃなくて私が“発光冷凍食品”なんだよ……」

苦笑しつつも、体はどんどんだるくなる。スーパーの半額弁当を温めて食べてみたが、半分残してしまった。
「私が弁当残すとか、バイト休むよりレア案件なんだけど……」

ため息をつき、布団に潜り込む。けれど布団の中まで冷えが入り込んで、手足はさらに冷たくなった。

その時だった。体の奥から「ぎぃぃ……」と古い冷蔵庫みたいな音が響いた気がした。

「え、今の音……私の内臓?」

目の前の天井がぐにゃりと揺れ、景色が雪原に変わっていく。

白い息を吐きながら、柚葉は立ち尽くした。辺り一面が凍りついていて、地面はバリバリとひび割れている。
その中央に、毛布にくるまって震える女性がいた。

「……脾?」

柚葉が声をかけると、女性――脾は力なく頷いた。
「ごめんなさい……。食べ物をエネルギーに変えたいのに……寒さで停電中なの……」
脾は胃袋のような器を抱えたまま、動けずにいる。

「停電って……。じゃあ、私のエネルギー供給止まってるってこと?」

すると、奥から青い光をまとった人物が現れた。長い髪が水のように揺れ、性別の分からない透き通る声で語りかけてくる。

「私は“腎”。本来なら体を温める火種を守る役割がある。でも……火が弱まってしまった。冷えとむくみが広がり、脾を助けられないんだ」

青い人――腎の声は震えていた。足元には小さな氷柱がいくつも立ち、そこから冷気が広がっている。

「ちょ、ちょっと待って。こたつONなのに内臓が冷凍庫って……。私、南極探検隊にでも採用された?」

柚葉は必死にツッコむが、体はどんどん冷えていく。

脾が力なく顔を上げる。
「私が弱れば、食べ物を力にできない。その分、腎にもエネルギーを送れなくなるの。だから腎の火も消えやすくなってしまう……」

腎も苦しげに頷く。
「そうだ……脾が作る力を受け取れなければ、俺は火種を守れない。二人が揃ってこそ、体を温められるんだ」

脾と腎が互いに支え合えず、共倒れになりかけている――五行のつながりが凍りついているのが見えた。

そこへ、剣を抜いた肝が現れた。
「巡りを良くしたいのに、通路が凍って動けない! このままじゃ気が滞る!」
氷に阻まれて苛立つ肝の剣がカンカンと音を立てる。

肺も現れ、眉を寄せた。
「肝よ、その苛立ちの根は脾と腎にある。二人が弱れば、気は巡らず、熱は頭にのぼり、寒さは内に居座る」

「ちょ、臓器間の人間関係こじれすぎ! 私の体内で内紛やめて!」

柚葉の声は、雪原に空しく響いた。

その時、空からふわりと温かな光が差し込んだ。

「……生姜?」

オレンジ色の小さな欠片が舞い降りる。鼻先をかすめた瞬間、ピリッとした香りが広がり、体の奥に熱がじんわり灯るように感じた。

腎が光を受け止める。
「これは陽気を助け、体を内側から温める。冷えを散らしてくれる食材だ」

続いて、青々とした葉と白い根が雪原に突き刺さった。

「これ……ネギ?」

脾が顔を上げ、少し笑った。
「そう。消化を助けて、胃腸を動かしてくれる。冷えを外へ追い出す力もあるの」

さらにニラが現れ、雪原を緑に染めていく。温かい風が吹き抜け、凍っていた通路が少しずつ解けていく。

柚葉は思わず手を叩いた。
「え、これ完全に食材ヒーローショーじゃん! こたつより頼れるとか反則でしょ!」

肝も剣を下ろし、苛立ちが収まっていく。
「……巡りが戻る。これなら剣を振るわなくていい」

腎は生姜の熱を胸に受け止め、火を大きくした。
脾はネギを抱きしめるように受け取り、器に力を取り戻していく。
「温められて、ようやく動ける……」

緑に染まる雪原を見ながら、肝も静かに頷いた。
「脾と腎が立ち直れば、俺の道も通る。これで気を巡らせられる」

臓器たちの表情に力が戻り、雪原は少しずつ春の兆しを取り戻していった。

気づけば柚葉はこたつの中で汗をかいていた。冷たい足先が、ほんのり温まっている。
「夢……だったのかな」

小さく笑いながら布団に潜り込む。
「内臓ブラック氷河期に食材ヒーローが参戦……。私の体、イベント盛りだくさんすぎでしょ」

体は完全に治ったわけじゃない。冷え性は一晩で解決するものではない。
けれど、体の中に少し火が戻った感覚があった。

「生姜最強説……。今度は鍋に入れてみよっかな」

そう呟いた直後、柚葉は安心したようにまぶたを閉じた。
吐息は白さを失い、柔らかな温かさを帯びていた。

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国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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