あんず– Author –
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五行クロニクル
第3話 こたつでも冷えるとか、私って内臓ブラック氷河期?(冷え編)
柚葉はこたつに足を突っ込みながら、顔だけ出してぐでーっとしていた。冬の夜。外は氷点下近いはずなのに、室内は電気代節約のためにエアコンを切っている。唯一の希望は、赤く光るこたつだけ――のはずだった。 「……おかしい。足、全然あったまらないんだけ... -
五行クロニクル
第2話 眠れぬ夜の心火と腎水(不眠編)
柚葉はベッドの上で、天井をにらんでいた。時計の針は夜中の二時を回っている。 部屋の隅には、飲みかけのペットボトルと、カップ麺の空き容器。机の上には、開きっぱなしの教科書と、半分残った安物のお菓子の袋。ペットボトルは飲みかけが2本、どっちが... -
あんずのブログ
第13話 かぼちゃ餡パイ
かぼちゃ餡パイと旅館の未来 秋の夕暮れ、街路樹の葉が色づき、窓から柔らかな光が差し込んでいた《喫茶つむぎ》。カウンターの奥では、私は焼き立てのお菓子を冷ましていた。パイの香ばしい匂いと、かぼちゃのほのかな甘みが店内に広がる。 ベルが鳴り、... -
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第12話 ハチミツ大根
ハチミツ大根と掠れた声 夕方の《喫茶つむぎ》。窓の外は春めいてきた風が吹いていたが、まだ冷たい空気が残っている。私はカウンターで大根を刻み、蜂蜜に漬け込んだ瓶を棚に置いた。しばらく待てば、透きとおった甘い汁がにじみ出てくる――喉に優しいお手... -
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第11話 緑豆スープ
緑豆スープと見失った鍵 昼下がりの《喫茶つむぎ》。外は晴れているのに、蒸し暑さが残り、じっとりとした空気が漂っていた。私は厨房で緑豆を煮込みながら、コトコトと立ちのぼる湯気を眺めていた。淡い緑色のスープは、火照った体を冷まし、夏の疲れをす... -
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第10話 山査子飴
山査子飴と揺れる恋心 午後の《喫茶つむぎ》。外はまだ日差しが強いけれど、店内は木の温もりとやさしい影に包まれていた。カウンターには、小瓶に詰めた赤い飴玉を並べている。光を透かすと、まるで小さなルビーのように輝いた。 「今日のおすすめは山査... -
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第9話 黒豆茶
黒豆茶と静かな余韻 夜の《喫茶つむぎ》。雨は止んでいたが、冷たい風が街を抜けていく。店内では温かな灯りがやわらかく揺れ、コーヒー豆と黒豆を炒る香ばしい匂いが漂っていた。 扉のベルが鳴り、入ってきたのは、先日ココアとレンコンサラダを食べて帰... -
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第8話 生蓮根
生蓮根サラダと紫の顔色 18時を少し過ぎた《喫茶つむぎ》。窓の外はすっかり暗くなり、冷たい夜風に街灯の光が揺れていた。私はカウンターでホットココアを温めながら、ふっと息をついた。 「ホットココアをお願いします」声をかけてきたのは、仕事帰りら... -
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第7話 生姜湯
生姜湯と凍えた言葉 夕暮れの《喫茶つむぎ》。外の風は冷たく、扉の隙間から入り込むたびに店内の空気をひやりと揺らした。「寒いなぁ……体の芯まで冷えそう」私は土鍋の火加減を見ながらつぶやいた。 湯気とともに立ちのぼる生姜の香りが、鼻を抜けてじん... -
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第6話 白きくらげ
白きくらげと雨の面影 昼過ぎの《喫茶つむぎ》。窓の外ではしとしとと雨が降り続き、ガラス一面に細い水の筋が走っていた。私はカウンターの布巾をしぼり、鍋でゆらゆらと透きとおる白きくらげを煮ていた。ココナッツミルクと合わせれば、潤いの甘いデザー...