あんず– Author –
-
五行クロニクル
第6話 むくみ迷宮で水路大混乱(むくみ編)
朝のアラームがけたたましく鳴った。柚葉はスマホを枕元で探りながら、重たいまぶたをこじ開ける。 「……うわ、顔パンッパン」 鏡をのぞき込んで、思わずのけぞった。まぶたは腫れぼったく、頬もふくらんで輪郭がぼやけている。昨日の夜、ゼミの発表準備で... -
五行クロニクル
第5話 乾燥で咳とか、私って砂漠のゼミ生?
柚葉はゼミ室の片隅で、必死に咳をこらえていた。乾燥した冬の空気が喉にまとわりつき、息を吸うたびにカサカサと音が鳴りそうだ。 「けほっ……んんっ……」 声を殺しながら喉を押さえる。マスクの中で、喉の奥がひび割れるように痛む。 夕方のゼミ。教授の声... -
あんずのブログ
第20話 百合根
百合根と眠れない教師 夜の《喫茶つむぎ》。雨上がりの湿った空気がまだ残る街に、店内の柔らかな灯りがにじんでいた。ベルが鳴り、和やかな雰囲気の中に少し張りつめた気配を纏って、一人の女性が入ってきた。 「……こんばんは」静かな声であいさつしたの... -
あんずのブログ
第19話 梨
梨と声のひらめき 夜の《喫茶つむぎ》。窓の外には街灯が淡く灯り、通りを行き交う人々の足音がリズムのように響いていた。カウンターの奥では、蓮が3弦ギターを抱えて静かにジャズを奏でている。深い音色が店内を柔らかく包み込んでいた。 ベルが軽やかに... -
あんずのブログ
第18話 陳皮茶
陳皮茶と入れ替わった鞄 午後の《喫茶つむぎ》。慌ただしいベルの音が鳴り響き、若い女性が勢いよく店に飛び込んできた。あんずは顔を見て、すぐに思い出した。――つい先ほど、アイスコーヒーを注文していたお客さまだ。 女性は焦った様子でカウンターに身... -
あんずのブログ
第17話 冷やし山芋
冷やし山芋と解けた暗号 昼下がりの《喫茶つむぎ》。蝉の声がじんわり窓を震わせるなか、扉が勢いよく開いた。 スーツ姿の若い男性が飛び込んできて、肩で息をしている。額には汗が滲み、ネクタイはぐしゃりと曲がっていた。 「す、すみません……ここ、《喫... -
あんずのブログ
第16話 黒胡麻プリン
黒胡麻プリンと映る影 午後の《喫茶つむぎ》。カウンターには黒胡麻プリンが並んでいた。表面に黒蜜をとろりと垂らすと、香ばしい胡麻の香りがふわりと漂う。 ベルが鳴り、真理子さんが明るい声で入ってきた。「こんにちは! 今日も元気にしてる?」いつ... -
あんずのブログ
第15話 胡桃
胡桃と繰り返すノート 日曜の午前、《喫茶つむぎ》の窓からやわらかな陽射しが差し込んでいた。由衣ちゃんはいつもの席でノートを広げている。成績優秀で、模試でも上位に入ると噂の常連だ。 けれど今日は様子が違った。ページには同じ行が繰り返され、文... -
あんずのブログ
第14話 銀杏
銀杏とほどほどの知恵 秋の夜、《喫茶つむぎ》のカウンターに炒った銀杏の香りが広がっていた。殻を割れば、翡翠色の実がつややかに顔を出す。 「今日のおすすめは炒り銀杏です。冷えを和らげ、疲れを癒してくれますよ」私は小皿に五粒ほど盛りつけて、カ... -
五行クロニクル
第4話 ストレス頭痛は風の仕業?(頭痛編)
柚葉は自分の机に突っ伏し、こめかみを両手で押さえていた。 夕方から続く頭痛は、授業を聞くどころじゃないほどにガンガン響いている。ノートの文字は二重ににじみ、友達に「大丈夫?」と心配されても「いやマジで脳内ドラムソロ開催中」なんて返すのが精...