第49話 もち米

目次

もち米と羽を休める粥

夕方の《喫茶つむぎ》は、日が傾くにつれて静けさが深まっていく時間だった。
窓際の席にはまだ光が残り、店内には鍋の余熱と、かすかな湯気が漂っている。

「……よっこいしょ」

少し大げさな声と一緒に、ひとりの女性が腰を下ろした。
背中を丸め、ふぅ、とひと息。

佐藤薫子さん。
年齢は六十五。
派手さはないのに、存在感だけはしっかりある。

どっしりと腰を下ろす姿は堂々としているのに、
動作の端々に「よっこいしょ」が混じる。
強そうなのか、弱っているのか、
そのどちらも正しいような、不思議な存在感だった。

薫子さんはメニューを手に取り、目を細めた。

「……字が、霞むわね」

しばらく頑張って眺めていたけれど、やがて諦めたようにメニューを閉じ、カウンター越しに私を見た。

「あんずちゃん。今日は……任せてもいい?」

「はい。もちろんです」

「助かるわ」

そう言って、薫子さんは小さく笑った。

「実はね、うちの人が今、田舎に帰省してて。
久しぶりなの。こうして一人で、外で食べるの」

「そうなんですね」

「ごはん、作らなくていいって……
それだけで、ずいぶん体が軽いのよ」

言葉は軽い。でも、その奥に疲れが滲んでいた。

「私、糖尿病だから、食べ物にはずっと気を使ってるの。
でもね、この半年くらい……なんだか変で」

薫子さんは、指を折りながら話し始めた。

「動きたいのに、体が動かない。
すぐ息切れするし、朝は下痢気味。
夜は寝汗をかくのに、手足は冷えるのよ。
上だけほてって……」

一拍置いて、続ける。

「目は霞むし、口は渇く。
なのに、尿は前より少ない」

「……」

「ねえ。糖尿病って、こんな症状だったかしら?」

その問いは、誰に向けたものでもなく、宙に浮かんでいた。

そのとき、つむぎさんが静かに言った。

「薫子さん。舌、ちょっと見せてくださる?」

「舌? いいけど……」

少し照れながら舌を出す。

つむぎさんは、ほんの一瞬、目を細めた。

「……胖嫩(はんどん)ね」

「え?」

「やわらかくて、ふくらみがある舌。
力が足りてないサインよ」

つむぎさんは、私の方を見た。

「……あんず」

私は、ゆっくりうなずいた。

(陰も、陽も。
どっちも、だいぶ使い切ってる)

「薫子さん。今日は、お粥にしましょう」

「お粥?」

「はい。
でも、軽すぎないお粥です」

厨房に立ち、鍋に火を入れる。
白いもち米、黒米、そして赤い枸杞の実。

「もち米は、体を温めて、力の土台を作ります。
黒米は、年齢で消耗しやすいところを支えてくれる。
枸杞の実は、潤しながら回復を助けるんです」

薫子さんは、カウンター越しにその様子を見ながら言った。

「前にね、もち麦のお粥を勧められたことがあって。
体にいいって聞いたから」

「もち麦自体は悪くないんですけど」
私は、鍋をかき混ぜながら続ける。
「熱を取る性質があるので、今の薫子さんには少し冷えやすいかもしれません」

「なるほど……」

「今日は、温めて、潤して、疲れ切ったところを休ませる配合です」

やがて、とろりとした粥が出来上がる。
黒と白の間に、枸杞の赤が浮かぶ。

器を差し出すと、薫子さんは少し目を見開いた。

「……きれいね」

ひと口。

しばらく、黙る。

それから、ぽつり。

「……誰かに作ってもらうごはんって、こんなに美味しかったかしら」

もうひと口。

「正直ね」
薫子さんは小さく笑った。
「うちの人のごはん、作るのも疲れるし、面倒で。
一人なら、こんなふうに気を使わなくていいのにって思ってたの」

「……」

「でも、今日は。
羽、伸ばせた気がするわ」

器を抱えながら、深く息を吐く。

「不思議ね。
元気がでた感じがする」

それで十分だった。

食べ終えたあと、薫子さんは背筋を伸ばした。

「また、来てもいい?」

「はい。いつでも」

「次は……もっと疲れてから、来ようかしら」

「その前に、来てください」

二人で、少し笑った。

見送ったあと、私はレシピ帳を開く。

——使い切った体には、足すより休ませる。
——回復は、羽をたたむところから始まる。

午後の《喫茶つむぎ》には、
粥のぬくもりだけが、静かに残っていた。

今日の薬膳ミニ知識

■ もち米
・体を内側から温め、消耗した力をやさしく支える主食。
・疲れやすい時や、冷えが続く時に向く。
・消化がよく、「食べること自体が負担」になっている時にも使いやすい。

■ 黒米
・体の土台を支え、年齢とともに弱りやすい部分を補う。
・白米に少量混ぜることで、重くなりすぎず滋養を加えられる。

■ 枸杞の実(くこ)
・血や潤いを補い、目の疲れや乾きやすさをやさしく整える。
・食べ疲れ・考え疲れが重なった時の回復を助ける食材。

■ 穀類の組み合わせについて
・単体では体を冷ましやすい穀類も、
 温める性質の食材と組み合わせることで、
 「冷やさず・重くならず」に取り入れることができる。

→ 元気が出ない時ほど、
 「効かせる」より「休ませる」食事を。
 誰かに作ってもらう一杯は、体と心を同時にほどいてくれます。

もち米 岡山県産 複数原料米 精米 無洗米

価格:4480円~
(2026/2/15 12:37時点)
感想(122件)

雑穀 雑穀米 国産 黒米 【内容量が選べる400g~24kg】お試しサイズ 無添加 無着色 送料無料 古代米 くろまい こくまい ダイエット食品 置き換えダイエット

価格:1280円~
(2026/2/15 12:37時点)
感想(1284件)

枸杞の実 クコの実 枸杞子 くこの実 ゴジベリー オーガニック お試し 少量 薬膳食材 和漢食材 乾燥 寧夏産 国産加工 日本国内 無添加 無着色 食物繊維 ビタミン クコ酒 薬膳茶 デザート 料理 1000円ポッキリ 税込 送料無料 36g

価格:1000円
(2026/2/15 12:38時点)
感想(43件)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

目次