黒豆と色づく山芋
昼下がりの《喫茶つむぎ》は、窓から差し込む光がやわらかく、時間が少しゆっくり流れているようだった。
ベルの音と一緒に、ベビーカーの小さな影が入口に現れる。
「こんにちは」
沙織さんだった。
腕にはベビーカー、足元にはちょこんと立つ陽翔くん。
その隣に、背筋を伸ばした女性が立っている。淡いベージュ色のコートに、整えられた髪。年齢を感じさせない所作だけれど、どこか慎重な表情だった。
「母です」
沙織さんがそう紹介すると、女性は小さく会釈した。
「今日は、母の体調に合わせたものをお願いできたらと思って」
私はうなずき、二人をテーブル席へ案内する。
お母さんはメニューに目を落としながら、少し迷うように口を開いた。
「最近ね、腰が重くて……足もすぐだるくなるの。
あと、髪も。気のせいかと思ってたんだけど、抜け毛が増えた気がして。
やっぱり年だからかしら」
「食欲はありますか?」
「ええ。それはあるのよ」
「それなら、体の土台はまだしっかりしていますよ」
“年齢”ではなく、“今の状態”を見る言い方を選ぶ。
「今日は、黒豆と山芋のポタージュはいかがでしょう。
体の内側を支えるスープです。美味しいですよ」
お母さんは、少し驚いたように目を上げた。
「黒豆……?」
「はい。内側から、じんわり温まる感じです」
隣で沙織さんが、ほっとしたようにうなずく。
「じゃあ、それでお願いします」
「陽翔くんには、りんごの葛湯をお出ししますね」
陽翔くんは意味もわからず、でも自分の名前が出たのが嬉しいのか、にこっと笑った。
厨房に立ち、私は黒豆を下ごしらえしながら鍋に火を入れる。
やわらかく戻した黒豆に、すり下ろした山芋。
牛乳ではなく、だしでのばして、味は控えめに。
その間、カウンターから沙織さんの声が聞こえた。
「そういえばね、母が前に家でとろろ作ったとき、ピンク色になったことがあって」
「え……それ、大丈夫なの?」
お母さんが心配そうに言う。
その会話に、つむぎさんがくすっと笑って口を挟んだ。
「大丈夫よ。それ、山芋に含まれる成分が空気に触れて色づいただけ」
二人が揃って、きょとんとする。
「リンゴを切ったあと、色が変わるでしょう?
あれと同じ。カビじゃないの」
「じゃあ、食べられたんですか?」
「見た目や匂いに異常がなければね。
ただ、時間が経つと味が変わることがあるから、早めがいいわ」
沙織さんは、思わず笑った。
「ずっと捨てちゃってました……」
「もったいないわね」
そう言って、つむぎさんは肩をすくめた。
ポタージュを器に注ぎ、そっとカウンターへ運ぶ。
「お待たせしました」
黒豆のやさしい色合いに、山芋のとろみ。
湯気がふわりと立ち上る。
お母さんはスプーンを手に取り、ひと口。
「……温まるわね」
その声は、思ったよりも柔らかかった。
もう一口、ゆっくり。
「とても美味しい。とろみが、やさしく包んでくれる感じ」
私はうなずいた。
「黒豆は、腰や足元を支える食材で、
山芋は、体力をゆっくり補ってくれるんです」
説明は、それだけにする。
お母さんは黙って食べ進め、やがてぽつりと言った。
「こういうの……好き」
その一言で、十分だった。
陽翔くんも、葛湯をちゅっと飲んで、満足そうに目を細めている。
食後、沙織さんが言った。
「母と一緒に来られて、よかったです」
お母さんは、少し照れたように笑う。
「孫と同じ時間に、同じ店で食べられるのって、いいものね」
つむぎさんが、カウンター越しに静かに言った。
「薬膳はね、体だけじゃなく、時間もつなぐの」
その言葉が、店の空気にやさしく溶けた。
二人を見送ったあと、私はレシピ帳を開く。
——支える料理は、静かに効く。
——美味しい、の一言が、いちばんの答え。
黒豆の残り香が、午後の光と一緒に、ゆっくり消えていった。
今日の薬膳ミニ知識
■ 黒豆
・腎を養い、腰や足腰のだるさ、抜け毛が気になる時を支える。
・年齢とともに弱りやすい“体の土台”を、やさしく補う食材。
■ 山芋
・気を補い、消化を助け、疲れにくい体づくりに役立つ。
・食べているのに力が出ない時の、心強い味方。
■ 葛
・体を穏やかに温め、胃腸を守る。
・子どもや消化力が落ちている人にも使いやすい。
→ 変わり目の体には、
強く変えるより、そっと支える食事を。
家族で食べられる味が、いちばんの養生です。
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