冷やし山芋と解けた暗号
昼下がりの《喫茶つむぎ》。
蝉の声がじんわり窓を震わせるなか、扉が勢いよく開いた。
スーツ姿の若い男性が飛び込んできて、肩で息をしている。
額には汗が滲み、ネクタイはぐしゃりと曲がっていた。
「す、すみません……ここ、《喫茶つむぎ》さんですよね?」
私がうなずくと、彼は胸ポケットからしわくちゃの紙切れを取り出した。
「先輩から“この店に行け”って、暗号を渡されて……」
そこには数字の羅列が書かれていた。
20-19-21-13-21-7-9
「夢中で解読したら、“TSUMUGI”になったんです。
僕、飲料メーカーで営業をしてまして。オーガニックのザクロジュースを扱っているんですが……暗号の答えがここしかなかったので……!」
必死な顔に、私は思わず笑いをこらえた。
営業というより、まるで謎解きに追い込まれた学生のようだ。
*
「……で? ここに来た理由はわかった。
でもまずは、まともな顔色に戻した方がいい」
カウンター奥から蓮が現れ、さらりとした口調で続けた。
「冷やし山芋、今の君に必要だ。注文、入れていいな?」
男性は一瞬戸惑ったが、空腹を思い出したのか苦笑してうなずいた。
「……お願いします」
すぐに冷えた器が運ばれてきた。
刻んだ山芋と胡瓜が出汁に浮かび、氷がかすかに揺れる。
一口食べると、彼の表情がほっと緩んだ。
「……体の奥まで涼しくなる。汗が引いて、頭が回る気がします」
蓮は片肘をつきながら飄々と笑う。
「山芋は“補気健脾”。気力を補って、夏の疲れを取り除く。
営業で走り回る体には、これくらいのケアが必須だ」
*
「改めまして、僕は高瀬陸といいます。
こちらが新商品のザクロジュースです。抗酸化作用もあって、美容や疲労回復にいいんですよ」
蓮はカタログをぱらぱらとめくり、にやりとした。
「ふむ。つむぎのお客さんにも合いそうだな。まずは一箱、仕入れてやるか」
「本当に……?!」
陸の顔がぱっと明るくなった。
*
帰り際、彼は深々と頭を下げた。
「先輩の暗号に感謝です。……次は正々堂々、普通の営業で来ますね!」
扉が閉まったあと、蓮は空になった器を片付けながらつぶやいた。
「商売ってのも謎解きみたいなもんだ。
鍵は相手の体調に合わせて開ける――それだけのことさ」
私はくすりと笑い、蝉の声と夏の午後の光に耳を澄ませた。
今日の薬膳ミニ知識
山芋:胃腸を補い、疲労回復・免疫力アップ。
「補気健脾」の代表格。冷やして食べると夏バテや火照りに効果的。
粘り成分は消化を助け、持久力を支えてくれる。
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