第4話 小豆

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小豆粥と消えた紙片

昼下がりの《喫茶つむぎ》。
外は雨がしとしとと降り続き、湿気が店の中までじんわりと入り込んでいた。

私は厨房で小豆を煮ていた。
ふっくらとした粒が踊り、湯気と一緒に甘い香りが立ちのぼる。
「小豆って、見てるだけでも元気が出そうだな」
そんなことを思いながら鍋を見守っていると、扉のベルが鳴った。

入ってきたのは、会社員風の女性――北村陽菜さん。
足元を気にするように歩き、カウンター席に腰を下ろすと、足首をそっとさすっていた。

「最近、足がむくんでしまって……雨の日は特にひどいんです」
困ったような表情に、店長のつむぎさんが柔らかく声をかける。
「でしたら、小豆粥をお試しください。小豆には利尿作用があって、体の余分な水分を流してくれるんですよ」

私は先ほどの小豆を器に盛りつけ、湯気とともに差し出した。
「どうぞ。体がじんわり軽くなるはずです」
陽菜さんはレンゲを口に運び、ふっと息を吐いた。
「……やさしい味。心まで落ち着きますね」

ふと、テーブルに置かれた猫カフェのチラシが目に入った。
雨でにじんだ跡があり、走り書きされた文字の一部が読めなくなっている。

「それ……?」
私が尋ねると、陽菜さんは頬を赤くして、ぽつりと答えた。
「飲み会の帰りに……。猫の話で盛り上がった人がいて……。
連絡先を交換するのは気恥ずかしかったみたいで、猫カフェのチラシに時間だけ書いて渡してくれたんです。
でも……雨に濡れて、15時か16時か、分からなくなっちゃって」

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私は思わず声を弾ませた。
「もしかして、それって……デートのお誘い?」
陽菜さんは恥ずかしそうにうつむいた。
「私も気になってるから……本当は行きたいんです。
でも、時間を間違えてすれ違ったらどうしようって」

そのとき、いつの間にかカウンターの端にいた蓮が、ひょいとチラシを手に取った。
濡れた紙を少し傾け、光に透かすように見つめる。
「……筆圧の跡が残ってるな。これは“15時”だな」

陽菜さんの目が見開かれる。
「え……そんなことまで分かるんですか?」
蓮は肩をすくめ、飄々と笑った。
「まあ、ちょっとした観察力だよ。雨の日の推理ゲームみたいなもんだ」

時計は14時50分を指していた。
窓の外、猫カフェの前に傘を閉じた若い男性が立っているのが見える。

陽菜さんは息をのんだ。
「……行ってみます」
小豆粥の器をきちんと戻すと、傘を手に駆け出していった。

残された器から、小豆の甘い香りがまだ漂っていた。
私は蓮に声をかける。
「オーナーって……やっぱりただ者じゃないですね」
蓮はコーヒーを口にし、目を細める。
「ただの偶然さ。けど、偶然が背中を押すこともあるだろ」

雨音の中に、その言葉がやさしく溶けていった。

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今日の薬膳ミニ知識

・小豆:利尿作用があり、余分な水分や老廃物を排出。
・むくみや湿気による体のだるさ、雨の日の不調に効果的。
・小豆粥は消化がよく、胃腸を整えながら体を温める。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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