第1話 杏仁豆腐

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苦い杏仁の真実

ここ《喫茶つむぎ》は、駅から少し離れた路地にある小さな喫茶店。
扉を開けると、木の温もりとやわらかな薬膳茶の香りが迎えてくれる。

私はそこで働く、薬膳師見習いのあんず。
薬膳の知識はまだまだ勉強中だけど、「体も心もほぐれる一皿」を出せるようになりたくて、毎日ここで修行している。

店長のつむぎさんは穏やかで包容力があり、お客さんもスタッフも安心させる人。
そしてカウンターの端に座っているのはオーナーの蓮。若いのに出資してこの店を支えている人だ。
ひょうひょうとしていて、何を考えているのか分からないけれど、時々妙に胸に残る言葉を口にする。

――そんな居場所で、今日も小さな“謎”が顔を出す。

「今日のおすすめは杏仁豆腐ですよ」
私は笑顔でお客様に運びながら、心の中で小さく首を傾げた。
杏仁って、薬膳にも出てくるけど……甜杏仁と、もうひとつ、なんだったかな?

そのつぶやきを拾ったのは、カウンターに座る常連の美里さん。
近くの漢方薬局で働く人で、私にとっては半分先生のような存在だ。

「杏仁には二種類あるのよ。甜杏仁と苦杏仁。甜杏仁はスイーツ用。苦杏仁は薬局で扱う生薬なの」
「えっ……じゃあ杏仁豆腐に入ってるのは?」
「もちろん甜杏仁よ。苦杏仁は日本では食用販売されていないわ。咳止めや痰を鎮める薬効があるけど、青酸配糖体を含むから少量で薬、多ければ毒。だから料理には使わないの」

「……知らなかった」
私はスプーンを見下ろした。甘くてやさしい杏仁豆腐に、そんな危うい顔が隠れているなんて。

美里さんはやさしく続けた。
「杏仁豆腐は薬膳的に、肺を潤して咳や喘息を和らげるの。それから便秘を解消する作用もあるわよ」
「便秘にも効くんですか?」
「ええ、特に“熱性便秘”や“乾燥便秘”。体の熱や乾きで腸の潤いがなくなるタイプにね」

なるほど……薬膳は奥が深い。まだまだ学ぶことが山ほどある。

そのとき、コーヒーを口にしていた蓮が、飄々とした声でつぶやいた。
「へえ、杏仁にそんな裏話があるのか。推理小説が一本書けそうだな」

私は思わず吹き出した。
真剣に考え込んでいたのに、蓮の一言でふっと力が抜ける。
不思議と救われるのは、こういう飄々としたところだ。

美里さんも笑い、「薬膳はね、正しく知れば生活を整えてくれる力になるの」とまとめてくれた。

店内に杏仁豆腐の甘い香りと、学びの余韻が広がっていった。

【今日の薬膳ミニ知識】

・杏仁には「甜杏仁(食用)」と「苦杏仁(生薬)」がある。
・甜杏仁は杏仁豆腐に使われ、安心して食べられる。
・苦杏仁は日本では食用販売されず、咳や痰を鎮める薬効を持つ。
・杏仁豆腐は「肺を潤して咳や喘息を和らげる」「便秘を解消する」効能がある。
・特に「熱性便秘」「乾燥便秘」に効果的。

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感想(7件)

トッピングアレンジ! 季節の彩り杏仁豆腐

🌸 春 ― 桃花杏仁豆腐

  • 苺・桜の花びら塩漬け・クコの実・ミント
    → 苺のビタミンCで冬の疲れをリセット、桜の花びらで華やかさを演出。
    → 「春は肝をいたわる季節。苺とクコの実が目や心の疲れを癒してくれます。」
    → ミントでストレスやのぼせを鎮め、リフレッシュ効果

梅雨 ― 初夏の爽やか杏仁豆腐

キウイ・ブルーベリー・レモンゼリー・クコの実
→ 胃腸を整え、湿気でだるい時期にぴったり。クコの実は目の疲れを癒し、潤いを与えて体調バランスを支えます。
→ 「梅雨のジメジメは脾に負担をかけます。爽やかな酸味で気を巡らせましょう。」


🌞 夏 ― 南国フルーツ杏仁豆腐

マンゴー・パイナップル・ミント・クコの実
→ 体の熱を冷まし、夏バテ予防。クコの実は体の潤いを補い、強い日差しで疲れた目や心もやさしく癒します。
→ 「夏は心の季節。トロピカルな彩りで元気と潤いをチャージ!」


🍁 秋 ― ほっこり杏仁豆腐

柿・梨・棗のハチミツ煮・クコの実
→ 肺を潤し、咳や喉の乾燥をケア。クコの実は肝を養い、乾燥でかすみがちな目や肌にも力を与えてくれます。
→ 「乾燥の季節におすすめ。柿と梨の潤い、棗の補血で体も心もやさしく整います。」


冬 ― 温もり杏仁豆腐

黒ごまペースト・りんごのコンポート・ナッツ(くるみ)・クコの実
→ 腎を養い、冷えや疲れをサポート。クコの実は血を補い、冬の冷たさで弱りやすい目や体力を守ります。
→ 「黒ごまは腎を補い、りんごの甘酸っぱさが冬の乾燥を和らげます。」

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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