第9話 便秘ウォーズ!トイレ前線異常アリ(便秘編・陰虚秘)

朝。
柚葉はトイレにこもっていた。

「……出ない。」

すでに10分は経っている。スマホの時計を見つめながら、額にじわりと汗がにじむ。
「昨日も、その前の日も……出てないんだよね。てか、腸、サボリすぎじゃない?」

便秘3日目。
お腹は張ってるのに、食欲は普通にある。むしろ、深夜のポテチもぺろっと完食した。
「Wi-Fiも腸も通信障害中……。信号出してんのにレスポンス返ってこない系?」

ため息をついて立ち上がる。鏡を見ると、肌もどこかくすんで見える。
「うわ……肌まで巻き添えかよ。腸内ブラックアウト、全身影響型じゃん」

寝不足・カフェイン過多・コンビニ食。
思い当たる原因は多すぎて、もはや誰が戦犯かわからない。
「どうする? 便秘薬……? いや、あれ飲むと腹痛コースだし……“自然に出す方法”で検索……っと」
スマホに「お通じ 即効 ストレッチ」と打ち込みかけて、途中でやめた。
「……いや、そういう努力できる人、便秘にならないんだよね」

頭を抱えた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

柚葉は気づけば、巨大なパイプが縦横に走る不思議な空間に立っていた。
湿気はなく、乾いた空気が肌を刺す。
天井の管からポタリ……と一滴の水が落ちてくるが、すぐに蒸発して消えた。

「……ここ、まさかの体内トイレ配管?」

その奥で、ヘルメットをかぶった青年がスコップを持ち、必死に掘っている。
額には汗。背中は泥まみれ。

「うう……動かない……。詰まってる……」

柚葉は駆け寄った。
「だ、大丈夫!? 誰!?」

青年は弱々しく振り返る。
「俺は“大腸”。本当なら、不要なものを外へ送る係なんだ。でも……道が乾いて、滑らないんだ」

パイプの壁はひび割れ、白く粉を吹いていた。
その上空から、落ち着いた声が降りてくる。

「呼吸を送っても届かない……。」
姿を現したのは肺。白い衣の裾が風に揺れている。
「俺は“肺”。上から気を巡らせるが、潤いが足りなくて下に伝わらない。肺と大腸は表裏の関係……俺が乾けば、下も動かなくなる」

肺はさらに言葉を続けた。
「便秘にもいろんなタイプがある。
熱がこもって硬くなる“熱秘”、ストレスで気が詰まる“気秘”、
そして今のお前のように潤いを失って乾く“陰虚秘”。
原因が違えば、整え方も違うんだ。」

柚葉は青ざめた。
「ってことは……私の体内、水道も送風機もストップしてるってこと!?」

その時だった。

「ドライが正義ぃぃぃ〜〜!!!」

突風とともに、サングラスをかけたマフラー男が現れた。
全身がパサパサで、髪から砂がこぼれている。
「俺は“燥邪Ver.2”! 湿度ゼロの快適地獄へようこそ! お前の腸をカッサカサにして、永久ストップしてやるぜ!」

彼の息が吹きつけるたびに、通路の水分が蒸発していく。
大腸はスコップを落とし、声を絞り出した。
「もう……潤滑油が……残ってない……」

肺も膝をついた。
「呼吸が……熱く、乾いていく……」

柚葉は叫ぶ。
「ちょ、やめて! 乾燥モードMAXとか、この冬の肌にも優しくないやつじゃん!!」

燥邪は鼻で笑う。
「潤いは怠惰! 乾けば陰なんて要らねぇ、俺が世界を軽くする!」

柚葉は頭を抱えた。
(いや、軽くなるどころか、出なくなるから!!)

その時、遠くから黒い粒がキラキラと舞い降りてきた。
香ばしい匂いとともに、どこか落ち着くような温もりが漂う。

「……これ、黒ごま?」

肺が顔を上げた。
「そうだ。黒ごまは潤いを与え、通りを滑らかにする。少量でも、滞った道を潤す力がある」

黒ごまの粒が通路のひびに入り込み、滑らかな光沢を取り戻していく。
大腸がスコップを再び握りしめた。
「……掘れる……! 通る……!」

続いて、金色の液体が上空からとろりと降り注いだ。
甘く、柔らかい香りが広がる。

「はちみつ!」

柚葉が叫ぶと同時に、通路がぬるりと輝きはじめた。
燥邪が顔をしかめる。
「うっ……ベタベタする……!」

肺が静かに言う。
「はちみつは肺を潤し、腸を動かす。自然の力で、優しく通す」

燥邪がマフラーを振り回す。
「甘ったるい! そんなもんで俺が溶けるか!」

しかし、そこへ透明な液体が差し込んだ。
それは黄金色に輝く――オリーブ油。

「……なんでオリーブオイル!?」と柚葉。

大腸が笑った。
「現代版“潤滑油”さ。西洋でも中医でも、腸を動かす力がある」

燥邪がつるりと足を滑らせて転んだ。
「ぬおっ!? 滑る! ドライの敵ぃぃぃ!」

地面が潤いを取り戻し、乾いた砂がゆっくりと溶けていく。
柚葉は息をついた。
「……腸って、潤いがないと動かないんだ……」

肺が頷く。
「潤いは命の滑り。呼吸も排泄も、流れで成り立っている」

燥邪は最後の抵抗を見せた。
「まだだ……俺には“ドライスナック”軍団が……!」

その瞬間、空からフルーティーな香りが広がった。
りんごとバナナ。
皮ごと光を放ちながら転がり落ちる。

「食物繊維部隊、参上〜!」

りんごが笑いながら言う。
「私は“整腸の果実”! 優しくまとめて押し出すのが得意なの!」
バナナも続く。
「僕は“潤滑サポート”! 食物繊維とカリウムで流れを整える!」

燥邪は二人の勢いに押され、あっけなく壁に激突。
「ぐわぁぁ! 俺様のドライ王国が……潤っていくぅぅぅ〜!」

彼の体はボロボロに崩れ、粉のように風に消えた。

静けさが戻る。
通路はつやつやと輝き、水が緩やかに流れていく。
肺は深く息を吐いた。
「これで大丈夫だ。上と下がつながった」

大腸はスコップを立てて笑った。
「今日の出荷、いける!」

柚葉は額の汗を拭い、苦笑した。
「……なるほど。出ない原因は“乾燥ブラック配管”と外部クレーマー(燥邪)だったわけね」

肺が優しく告げた。
「便秘は、誰もが同じではない。
熱で固まる人もいれば、気が詰まる人もいる。
お前のように乾いて止まる者も、力が足りず押し出せない者もいる。
――体の声を聞けば、出す力は戻る。」

ふっと景色が揺れ、柚葉は現実に戻った。

トイレの中。
時計を見ると、20分が経過している。
「……お? ……もしかして、きた……?」

静かな数秒ののち、柚葉の顔がぱっと明るくなった。
「よしっ! 通ったーー!!」

勢いよく立ち上がり、洗面台で顔を洗う。
鏡の中の顔が、少しスッキリして見えた。

台所の冷蔵庫を開けると、昨日買ったヨーグルトとはちみつが目に入る。
スプーンでひと口すくって食べながら、思わず笑った。

「便秘にもいろいろあるんだよね。
私のは“乾いて止まる砂漠タイプ”。
でも、潤せば動く――そんな単純さ、ちょっと好きかも。」

冷たい朝の光が差し込む中、柚葉はマグカップに温かいお茶を注いだ。
「潤滑オペ完了。今日もなんとか流れてくれよ、マイライフライン」

その声は、どこか軽く晴れやかだった。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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