桂花茶と不思議な受験生
冬の夕暮れ、街には冷たい風が吹き抜け、通りを歩く人々の吐く息が白く揺れていた。
《喫茶つむぎ》のドアベルが鳴り、制服姿の女の子がふらりと入ってきた。
「こんばんは……」
椅子に腰を下ろしたのは、高校3年生の由衣ちゃん。
「キャラメルナッツタルトと紅茶をお願いします」
おもむろに注文すると、カバンに顔をうずめた。
私が「どうしたの?」と声をかけると、由衣ちゃんは少し間を置いて口を開いた。
「今日は模試だったんですけど……朝から頭が重くて、めまいもして。病院で“起立性調節障害”って言われてて、朝はなかなか起きられないんです。食欲もなくて……」
彼女は紅茶のカップを両手で包み込み、じっと見つめていた。
私は頷いて言った。
「それは血の巡りが滞っているのね。血圧が低いと、脳に十分な血が届かなくて、めまいや立ちくらみが出やすくなるの」
由衣ちゃんは小さく肩をすくめて、それでも胸を張るように言った。
「こう見えて勉強は出来る方なんです。円周率を100桁言えるんですよ!……まぁ、日常生活では役に立たないですけど」
少し自嘲気味に笑った。
奥でギターを爪弾いていた蓮が、飄々と口を開いた。
「円周率を100桁? ……そういうやつが一番面白いんだ。オカルト研究会に入ってるんだっけ? 『ムー』を読む受験生なんて、なかなかいないだろ」
由衣ちゃんは顔を赤らめて机の上を見た。そこには愛読書の『ムー』が置かれていた。
「えっ……見えてましたか……!」
蓮は笑って肩をすくめる。
私はやさしく言葉を添えた。
「そんな由衣ちゃんにおすすめなのは“桂花茶”です。金木犀の花のお茶で、血行を促して冷えや低血圧を和らげてくれます。香りには心を落ち着ける作用があって、緊張や不安で眠れないときにも役立ちます。それに消化を助ける働きもあるので、食欲不振にもいいんですよ」
カップに注いだ桂花茶を差し出しながら、「サービスするから飲んでみて」と言った。
つむぎさんも頷いて続ける。
「香りには記憶や集中を整える力があります。勉強で疲れた心をリセットしてくれるはずですよ」
やがて運ばれてきた桂花茶の湯気は、やさしい甘い香りを漂わせた。
由衣ちゃんはそっと口をつけ、ひと口含んで目を細める。
「……金木犀の甘く華やかな香り。リラックスできて、頭の重さが和らいだ気がします」
彼女の表情に、柔らかな光が差した。
「明日の勉強も、ちょっと頑張れそうです」
蓮はギターを軽く鳴らし、にやりと笑った。
「低血圧だからといって油断できないな。休むときはしっかり休んで、勉強もほどほどにな」
店内に広がる桂花茶の香りが、受験生の緊張をやさしくほぐしていった。
今日の薬膳ミニ知識
• 桂花(キンモクセイ):血行を促し、冷えや低血圧を改善。リラックス効果で精神を安定させ、緊張や不眠にも役立つ。
• 起立性調節障害:自律神経の調整がうまくいかず、朝起きられない、立ちくらみ、頭痛、食欲不振などを起こす。血の巡りを整え、生活リズムを安定させることが対策の一つ。
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