第2話 棗のハチミツ煮

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消えた棗の秘密

《喫茶つむぎ》には、少し不思議な雰囲気がある。
木の棚やアンティークのランプに混じって、場違いなようでいて妙に似合う大きな等身大の鏡。

あれはオーナーの蓮が「おしゃれなオブジェ」として置いたものだ。
気まぐれで場所を動かすから、常連の間でも「また位置が変わってる」と小さな話題になっていた。

その日の午後。
蓮は民族楽器風の3弦ギターを抱え、ゆったりとカフェミュージックを奏でていた。
「誰かから貰ったんだ」と本人は飄々と笑って言うが、曲の響きには不思議な温かみがある。

演奏を聴きながら、窓際では若い女性客がスケッチブックを開いて物思いにふけり、
カウンターでは常連たちが静かに会話を交わしている。
音楽に溶けるように、店は穏やかに流れていた。

「すみません……少し、ふらついてしまって」
声をかけてきたのは、その日初めて来店した女性客。
顔色が薄く、立ち上がると手元が危うい。

店長のつむぎさんがすぐに声をかける。
「大丈夫? 貧血気味かしら」
私は棗のハチミツ煮を小鉢に盛りつけて差し出した。
「こちらをどうぞ。棗は血を補って体を温めてくれます」

女性はおそるおそる口に運び、ほっとしたように微笑んだ。
「……甘くてやさしい味ですね」

棗は薬膳で「補血」の代表。疲れや貧血でふらつくときにぴったりだ。

小鉢を見ながら私は考え込んだ。
「もう少し棗のハチミツ煮を作っておこうかな」
残りはわずか。仕込み用に置いてあるはずの袋を探しに行ったが――どこにもない。

「おかしいな、ここに置いたはずなのに」
私は棚の前で首を傾げた。

そのとき、ふらついた女性客が支えを求めて鏡の縁に手をついた。
鏡がわずかに揺れ、後ろに隠れていた紙袋が姿を現す。

「……あ、あった!」
鏡を移動させた拍子に、棗の袋が死角に隠れてしまっていたのだ。

私は胸を撫でおろした。
「よかった。誰かが持ち出したんじゃなくて」

蓮はギターの音を止め、肩をすくめて笑った。
「消えたと思ったら、鏡の裏か。
まるでマジックだな。推理小説の小道具にでもなりそうだ」

私は思わず吹き出した。
心臓が早鐘を打つような緊張から、ほんの少し解放された気がした。

つむぎさんが棗の袋を受け取り、落ち着いた声でまとめる。
「薬膳はね、驚かすためじゃなく、支えるためのものよ。
今日もきちんと仕込んでおきましょうね」

棗の甘い香りが再び店内に満ちる。
音楽と薬膳が重なり合って、《喫茶つむぎ》には不思議な安らぎが広がっていた。

【今日の薬膳ミニ知識】

・棗(なつめ):中医学では「補血」の代表。血を補い、心身を落ち着ける。
・特に女性の貧血や疲労、冷えに用いられる。
・棗のハチミツ煮は甘みが強く、胃腸にやさしい。

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感想(28件)

棗のハチミツ煮簡単レシピ

材料(作りやすい分量)

棗(なつめ・乾燥)… 10~15粒
ハチミツ … 大さじ3〜4
水 … 150ml

作り方

棗の下ごしらえ
乾燥棗を軽く洗い、包丁で切り込みを入れる(または半分に割ると煮汁がしみ込みやすい)。

煮る
小鍋に水と棗を入れ、弱火で10分ほどコトコト煮る。
→ 棗がふっくら柔らかくなればOK。

ハチミツを加える
火を止めてから蜂蜜を加え、余熱でなじませる。
(蜂蜜は熱に弱いので、火を止めてから加えるのが薬効を活かすポイント✨)

保存

粗熱がとれたら清潔な保存容器に入れ、冷蔵庫で保存。2〜3日で食べ切る。

アレンジ

棗ハチミツ茶:煮た棗とシロップをそのままカップに入れ、熱湯を注いでお茶として。
デザート風:ヨーグルトやアイスにトッピング。
薬膳粥に:お粥に加えて、朝食の養生食に。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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