苦い杏仁の真実
ここ《喫茶つむぎ》は、駅から少し離れた路地にある小さな喫茶店。
扉を開けると、木の温もりとやわらかな薬膳茶の香りが迎えてくれる。
私はそこで働く、薬膳師見習いのあんず。
薬膳の知識はまだまだ勉強中だけど、「体も心もほぐれる一皿」を出せるようになりたくて、毎日ここで修行している。
店長のつむぎさんは穏やかで包容力があり、お客さんもスタッフも安心させる人。
そしてカウンターの端に座っているのはオーナーの蓮。若いのに出資してこの店を支えている人だ。
ひょうひょうとしていて、何を考えているのか分からないけれど、時々妙に胸に残る言葉を口にする。
――そんな居場所で、今日も小さな“謎”が顔を出す。
*
「今日のおすすめは杏仁豆腐ですよ」
私は笑顔でお客様に運びながら、心の中で小さく首を傾げた。
杏仁って、薬膳にも出てくるけど……甜杏仁と、もうひとつ、なんだったかな?
そのつぶやきを拾ったのは、カウンターに座る常連の美里さん。
近くの漢方薬局で働く人で、私にとっては半分先生のような存在だ。
「杏仁には二種類あるのよ。甜杏仁と苦杏仁。甜杏仁はスイーツ用。苦杏仁は薬局で扱う生薬なの」
「えっ……じゃあ杏仁豆腐に入ってるのは?」
「もちろん甜杏仁よ。苦杏仁は日本では食用販売されていないわ。咳止めや痰を鎮める薬効があるけど、青酸配糖体を含むから少量で薬、多ければ毒。だから料理には使わないの」
「……知らなかった」
私はスプーンを見下ろした。甘くてやさしい杏仁豆腐に、そんな危うい顔が隠れているなんて。
美里さんはやさしく続けた。
「杏仁豆腐は薬膳的に、肺を潤して咳や喘息を和らげるの。それから便秘を解消する作用もあるわよ」
「便秘にも効くんですか?」
「ええ、特に“熱性便秘”や“乾燥便秘”。体の熱や乾きで腸の潤いがなくなるタイプにね」
なるほど……薬膳は奥が深い。まだまだ学ぶことが山ほどある。
そのとき、コーヒーを口にしていた蓮が、飄々とした声でつぶやいた。
「へえ、杏仁にそんな裏話があるのか。推理小説が一本書けそうだな」
私は思わず吹き出した。
真剣に考え込んでいたのに、蓮の一言でふっと力が抜ける。
不思議と救われるのは、こういう飄々としたところだ。
美里さんも笑い、「薬膳はね、正しく知れば生活を整えてくれる力になるの」とまとめてくれた。
店内に杏仁豆腐の甘い香りと、学びの余韻が広がっていった。
【今日の薬膳ミニ知識】
・杏仁には「甜杏仁(食用)」と「苦杏仁(生薬)」がある。
・甜杏仁は杏仁豆腐に使われ、安心して食べられる。
・苦杏仁は日本では食用販売されず、咳や痰を鎮める薬効を持つ。
・杏仁豆腐は「肺を潤して咳や喘息を和らげる」「便秘を解消する」効能がある。
・特に「熱性便秘」「乾燥便秘」に効果的。
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トッピングアレンジ! 季節の彩り杏仁豆腐

🌸 春 ― 桃花杏仁豆腐
- 苺・桜の花びら塩漬け・クコの実・ミント
→ 苺のビタミンCで冬の疲れをリセット、桜の花びらで華やかさを演出。
→ 「春は肝をいたわる季節。苺とクコの実が目や心の疲れを癒してくれます。」
→ ミントでストレスやのぼせを鎮め、リフレッシュ効果
☔ 梅雨 ― 初夏の爽やか杏仁豆腐
キウイ・ブルーベリー・レモンゼリー・クコの実
→ 胃腸を整え、湿気でだるい時期にぴったり。クコの実は目の疲れを癒し、潤いを与えて体調バランスを支えます。
→ 「梅雨のジメジメは脾に負担をかけます。爽やかな酸味で気を巡らせましょう。」
🌞 夏 ― 南国フルーツ杏仁豆腐
マンゴー・パイナップル・ミント・クコの実
→ 体の熱を冷まし、夏バテ予防。クコの実は体の潤いを補い、強い日差しで疲れた目や心もやさしく癒します。
→ 「夏は心の季節。トロピカルな彩りで元気と潤いをチャージ!」
🍁 秋 ― ほっこり杏仁豆腐
柿・梨・棗のハチミツ煮・クコの実
→ 肺を潤し、咳や喉の乾燥をケア。クコの実は肝を養い、乾燥でかすみがちな目や肌にも力を与えてくれます。
→ 「乾燥の季節におすすめ。柿と梨の潤い、棗の補血で体も心もやさしく整います。」
❄ 冬 ― 温もり杏仁豆腐
黒ごまペースト・りんごのコンポート・ナッツ(くるみ)・クコの実
→ 腎を養い、冷えや疲れをサポート。クコの実は血を補い、冬の冷たさで弱りやすい目や体力を守ります。
→ 「黒ごまは腎を補い、りんごの甘酸っぱさが冬の乾燥を和らげます。」