ざくろ黒酢とほどける夜
夕方の《喫茶つむぎ》は、外を吹く風の音だけが控えめに響いていた。
私は開店準備をしながら、レシピ帳をめくる。
——巡らせる。
——香りで整える。
——温める。
良いことばかり並んでいるようで、
ふと「本当に全部“良い”のかな?」と胸がざわついた。
誰にでも同じように効くわけじゃない。
そんな当たり前が、最近ようやく重みを持ち始めた。
「蓮さん、いい薬膳って何ですか?」
蓮は新聞を折り、淡々と答えた。
「状況次第だ。」
「もっと……説明を。」
「説明だよ。」
そこで会話は途切れた。
いつも通りなのに、今日はどこかその言葉が深く残った。
ベルが鳴いた。
「こんばんは……」
入ってきたのは常連の森永翠さん。
いつもより少し顔色が悪い。
肩のラインもどこか張りつめて見えた。
「今日、少し寒いですね。」
私が声をかけると、翠さんは小さく笑った。
「寒さもだけど……たぶん疲れね。
今週、残業ばかりで。月の前なのか、胸が張って脇のあたりが地味に痛むの。
でも仕事モードだと、つい我慢しちゃって……」
(あ……気滞と血瘀。
胸の張り、脇腹の痛み、夜の刺すような痛み。
しかも月経前……)
翠さんは続けた。
「ストレスのせいだと思ってたけど、今日はなんだか息も浅くて。
何か……落ちつくものある?」
私は条件反射のように“香りで巡らせるもの”を考え、
ローズティーを差し出しそうになった。
その瞬間、翠さんの胸元に置かれた手の動きがふと目に入る。
ぎゅっと押さえるような、無意識のしぐさ。
(……違う。巡らせるだけだと、
すでに張りつめている気を、さらに煽ってしまうかも)
頭の中で昨日の学びがふっとつながった。
“巡らせる=上げるではない。
風は、向きを選ぶ。”
レシピ帳にあった蓮さんの走り書きが、浮かび上がるように思い出された。
「翠さん……今日は、温めるより“ほどく”方向で作ります。」
「ほどく……?」
「はい。今は胸のあたりに“ギュッ”と固まった感じがあるので、
それをゆっくり緩める食べ物を。」
私はざくろ黒酢に蜂蜜を少し混ぜ、炭酸でゆっくり割る。
底にざくろの粒が淡く揺れ、ほんのり赤い光を宿す。
「どうぞ。
ざくろ黒酢のスパークリングです。
香りは優しく、
酸味で巡りを“ゆるめてから”ほどくお飲み物。」
翠さんは一口飲み、ほっと肩を落とした。
「……あ、なんだろ。胸のつかえが少し楽になる……。」
蓮が新聞を閉じ、ぼそりと言う。
「固まってる時に押すと、余計固まる。
流れを変えるなら、まず固さを見ろ。」
翠さんは笑った。
「それ……職場の後輩にも言ってほしいわ。」
店内に小さな笑いが広がる。
私はレシピ帳を開き、静かに書き加えた。
——固い気持ちは押しても動かない。
——酸味と香りで“ほどいてから”、そっと流す。
——痛みは、その人の速度でしかほどけない。
翠さんはグラスを見つめながら言った。
「また来ていい? たぶん、今週はまだ忙しいから。」
「もちろんです。」
扉を出るころには、
さっきまで張っていた肩が、ほんの少し落ちて見えた。
ストーブの灯りが揺れ、
ざくろの赤が夜の静けさに溶けていく。
私はそっと息を吐いた。
(方向を、ちゃんと見られたかもしれない。)
蓮が小さく言う。
「……よく診たな。」
胸の奥に、静かに春が巡った気がした。
今日の薬膳ミニ知識
■ ざくろ(石榴)
・血の巡りを助け、滞りによる“重だるさ”や“刺すような違和感”をやわらげる。
・女性の月経前のイライラや胸の張りにも。
・抗酸化作用で疲労回復にも役立つ。
■ 黒酢
・巡りを促し、固まった気や血をゆるめる。
・肩や脇腹の張り、ストレスの停滞感に。
・胃にやさしく、食欲が落ちた時にも。
※刺激が強いと感じる場合は、蜂蜜や炭酸で薄めて。
■ 蜂蜜
・緊張した体をやわらげ、酸味をまろやかに包む。
・喉や胸の違和感をゆっくりほどく。
→ 固まったものは、押すより“ほどく”。
酸味とやわらかな香りは、気と血の“つまったところ”を静かに流します。
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