第15話 五臓クロニクル、未来へのレシピ

朝のアラームが鳴る前、柚葉はすでに目を覚ましていた。

すっきり、とは言わない。
でも――いつものような「私、布団と契約してた? 外界と縁切れてる?」みたいな感覚ではなかった。

まぶたを開けると、ほんの少し軽さがある。

「……お? 起きれる……かも。」

布団からそろりと腕を伸ばして身体を起こす。
まだ眠気はあるけれど、昨日よりも、少しだけ前に進んでいる気がした。

洗面所へ向かい、顔を覗き込む。

「まあまあ。輪郭ある。今日の私は、ちゃんと“私の顔”。」

むくみもゼロじゃない。クマも健在。
でも、鏡越しの自分が、どこか息をしているように見えて――柚葉は小さく笑った。

朝日が差し込む部屋で、白湯を啜る。
湯気がゆっくり上がるのを見ていると、胸の奥のざわざわが不思議とほどけていく。

「……静かだ。」

そう呟いた瞬間――視界が柔らかく揺れた。

もう驚かない。
いつもの展開だ、と心のどこかでわかっていた。

まぶたを閉じ、再び開けると――そこは体内世界。

だけど、今までとは違った。

戦場でも、荒野でも、迷宮でもない。
ふわりと柔らかな空気が漂い、ステージのような場所に五臓たちが集まっている。

まるでライブ前のリハーサルみたいだ。

肝が剣ではなく、笛のような棒を持っていた。
肺は白衣ではなく、柔らかなストールを羽織り、深い呼吸をしている。
脾は器を抱えたまま、微笑んでいた。
腎は静かに水辺に立ち、深い青をまとい、穏やかに揺れている。
心は赤い光をまといながら中央に立ち、優しく手を伸ばした。

「柚葉。よく来たね。」

その声は、前と違う。
命令でも、焦りでも、混乱でもなく――ただ、温かい。

柚葉はぽつりと言った。

「……なんか、平和すぎて逆に怖いんだけど。
大丈夫? 今日、誰も爆発しない?」

肝が肩をすくめて笑った。

「俺だって、毎回暴れてえわけじゃねえよ。
でもな――巡らなかったら、どうにもならなかった。」

脾が続ける。

「わたしも、ご飯を力に変えたいだけなのに、余裕がない時は動けなくなるの。」

肺は静かに柚葉を見つめた。

「呼吸は、自分を責めるためにあるんじゃない。
君を満たすためにある。」

腎は柔らかく微笑んだ。

「休むことを怖がらなくていい。
充電しないと、また倒れるだけだ。」

そして、心がゆっくりと言葉を落とす。

「私たちは敵じゃない。
ただ、伝えたかったんだ――“気づいて”って。」

その言葉に、胸の奥がふっと熱くなる。

柚葉はぽつりと呟いた。

「……私、ずっと間違えてたんだね。」

五臓たちは首を横に振った。

「間違いじゃないよ。」
「知らなかっただけ。」
「学んでる途中。」
「生きてる証。」
「そして、ここまで来た。」

それぞれ違う声が、でもひとつの意味を持って響く。

そのとき――影が現れた。

以前のように荒れ狂う存在ではなく、静かに立つ黒い影。
恐怖ではなく、空気、と言った方が近い。

柚葉は顔をしかめた。

「あんたまだいたの?」

影は笑う。

「当然だろ。私は“ストレス”。
生きてる限り消えない。
でも――」

声が低く、落ち着き、どこか優しかった。

「前のように暴れたりはしない。
今のお前には、“余力”があるからな。」

柚葉は目を瞬かせた。

「……余力?」

肝が歩み寄り、柚葉の胸に手を当てる。

「そう。
ぎゅうぎゅうに詰め込まず、余裕を残すこと。
休むスペース。
呼吸のスペース。
感じるスペース。」

肺が続ける。

「吸う前に、吐く。
満たす前に、手放す。」

脾が笑いながら言う。

「食べることは、生きること。
選ぶことは、自分を選ぶこと。」

腎が静かに告げる。

「未来を作るのは、今日の積み重ね。」

心が最後に、まっすぐ言った。

「だから――私たちを敵だと思わないで。」

柚葉は、息を吸った。

深く。
今までより、ずっと深く。

そして――

「……うん。
わかった。
完璧じゃなくていいなら――

私、少しずつやる。」

その瞬間、体内世界が光に包まれた。

気づけば部屋に戻っていた。

机の上には小さなメモ。

今日やること
□ 朝、白湯
□ 深呼吸3回
□ 寝る前にスマホ置く
□ りんご食べる
□ 疲れたら休む(←重要)

柚葉はふっと微笑んだ。

「よし。
今日の私は、今日の私でいい。」

コートを羽織り、外へ出る。

冬の冷たい風が頬を撫でたけれど、胸の奥は不思議と暖かかった。

――END―― 

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国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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