第14話 すれ違う気のコンチェルト(自律神経編)

朝のアラームが鳴って、柚葉は布団から片手だけ出し、スマホを止めた。
目は1ミリも開いていない。脳みそはまだ夢の国に滞在中。

「……あと5分……いや……永遠……」

布団の中は天国。外界は地獄。
体は動かないのに、胸だけがソワソワして妙に落ち着かない。

(寝てるのに疲れてるって何……?)

起き上がろうとした瞬間、ズーンと肩が重くなり、胸の奥がキュッと締めつけられた。

「え、なにこれ。私、寝てるだけでストレス受信してる……?」

ふらつきながらリビングへ行き、水を飲んでみても頭はぼんやり。
昨日のレポート提出、バイト、友達の相談、明日のゼミ発表。
休んでいても、心だけが走り続けているようだった。

「……なんか、息が浅い……」

そう思った瞬間、視界がふっとゆがんだ。

次の瞬間、柚葉はキラキラ輝く豪華なコンサートホールに立っていた。
でもその光景は、華やかさよりも混乱のほうが強かった。

中央では、肝が指揮者としてタクトを振っている――が、その動きは明らかに荒い。

「テンポ合わせろ! 気が巡らないんだ!!」

弦楽器担当の肺が必死に音を合わせようとするが、呼吸が浅くてフレーズが乱れる。

「はぁ……息が足りない……音にならない……」

鍵盤担当の脾はクタクタで、椅子にしがみついている。

「……ごめんなさい……エネルギー不足で……指が動かない……眠い……」

打楽器担当の腎は背中を丸め、太鼓にもたれかかっている。

「……休みたい……静かに……横になりたい……」

そして柚葉の頭上には、黒いモヤが漂っていた。

「ぷるるる〜〜不協和音最高〜〜」

黒い煙のような影が笑っている。姿は見えないのに、重くまとわりつくような存在感。

「……外邪?それともストレス妖怪??」

影は踊るように柚葉の周りを回り、囁いた。

「私は“交感神経暴走モード”。
休んでても、スイッチOFFできない君の脳みその残業魔だよ〜〜。」

柚葉は叫んだ。

「え、私の体内、ブラックサーバー稼働中!?
寝てるのに稼働時間超過してるの!?」

肝が怒りながら言う。

「巡りたい!動きたい!でも通路が乱れてる!」

肺が続く。

「呼吸が浅いから……落ち着けない……」

脾は泣きそうになりながら囁く。

「消化弱ってるから、寝ても補給できない……」

腎は小さく呟く。

「……休息が必要……回復には静けさが必要……」

柚葉は頭を抱えた。

「いやこれ……体内オーケストラ、完全にリハ崩壊じゃん!!」

その時だった。

ホール天井から、ふわりと甘い香りが降り注いだ。

「これは……蜂蜜?」

蜂蜜が光の粒になって舞い降り、ホール全体に広がる。

肺が深く息を吸う。

「……甘さが緊張をゆるめる……呼吸が深くなる……」

続いて、柔らかな香りの湯気が立ち上がった。

「ホットミルク……!」

脾が椅子からゆっくり立ち上がる。

「……優しい温かさ……胃腸が喜んでる……」

次に、淡い赤色の光が丸く転がった。

「これ、りんご?」

腎がその光を優しく手に取る。

「りんごは落ち着きを与える……疲れた心を静める……脾も補う……」

最後に、しんと落ち着いた黒い光が広がった。

「黒豆……?」

黒豆は穏やかに言った。

「土台が整えば、心も呼吸も巡りも整う。焦らなくていい。」

その瞬間、ホール全体の空気がゆっくり解けていくように柔らかく変わった。

肝がふっと息を吐いた。

「……テンポ戻ってきた。」

肺は静かに呼吸し、脾は鍵盤に手を置き、腎は背筋を伸ばした。

音が――重なり始めた。

バラバラだった音が、ゆっくりひとつの調和になっていく。

柚葉はそれを聞きながら、小さく笑った。

「……あぁ……これ、私の呼吸だ。」

景色がふっと揺れて、柚葉は現実に戻った。

自室。
机の横には、昨日コンビニで買った温めるだけの小さなミルクパックと、切って食べかけのりんごがある。

柚葉はゆっくり息を吸い、吐いた。

「……今は、走るんじゃなくて、整える時間、か。」

温めたりんごとホットミルクを飲みながら、柚葉は小さく笑った。

胸の奥のざわざわが、すこしずつ静かになっていく。

「よし……今日は、自分のペースで生きてみよ。」

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外の世界はまだ忙しいままだけど、
柚葉の体内オーケストラは――ようやく、静かに音を奏で始めていた。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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