第35話 白木耳2

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白木耳と静かに戻る声

夜の《喫茶つむぎ》は、雨の音がBGMのように静かに流れていた。
常連客が帰り、私は片づけをしながら、白木耳(しろきくらげ)を水につけて戻していた。

ふと耳に届いたのは、いつもと違う音。

——歌声。

蓮がカウンター奥で三弦ギターを弾きながら、ゆっくりと言葉を紡いでいた。
インストゥルメンタルばかりの彼が歌っている姿を、私は初めて見る。

声は完璧ではない。
けれど、柔らかくて、どこか大切なものを撫でるような響きだった。

そのとき――ベルが鳴った。

「……声が戻ったんだな。」

入ってきたのは、濡れたコートを脱ぎながら店内を見渡す男性。
蓮は弦を止め、一瞬だけまなざしを伏せた。

「ああ。喉を酷使したのが悪かった。」

「歌えるならよかったよ。あの時はどうなるかと思った。」

男は苦笑しながら席に座る。

私は慌てて声をかけた。

「こんばんは。お飲み物は?」

「……マンゴーティーを一杯。ほら、昔オシャレぶって飲んでたやつ。」

その言い方に、蓮が小さく鼻で笑う。

「久しぶりだな、拓斗。」

「名前まで覚えてるとは思わなかった。」

二人の会話には、“昔からの空気”があった。

私はマンゴーティーを置きながら尋ねる。

「お知り合いなんですね?」

拓斗は肩をすくめた。

「元々、蓮のライブの音響をやってた。
フェス直前まで調整漬けで、寝不足とストレスで……」

蓮が目線で制すように言う。

「話すほどじゃない。」

それでも拓斗は続けた。

「医者に止められても歌おうとしてた。
声が出ないってことが、あいつにとっては“存在が消える”みたいなことだったんだ。」

私は息を飲んだ。

蓮はギターを置き、淡々と言った。

「焦りすぎただけだ。止まればよかった。」

拓斗は視線をつむぎさんへ向ける。

「……いや。止めたのは、この人だ。」

奥から出てきたつむぎさんは、何も言わず鍋に火をつけた。
白木耳、百合根、梨、蜂蜜——
音も言葉もいらない料理が、静かに温まっていく。

「焦った声は、焦ったまま喉に残るの。」

つむぎさんは静かに言う。

「声より先に、息と心を戻すのよ。」

蓮の横顔が少しだけ揺れた。

私は器に温かいデザートをよそい、二人の前に置いた。
白木耳が雨の音と重なるように、静かに光っていた。

拓斗はひと口食べ、目を細める。

「……昔より柔らかい。角がない味になったな。」

蓮は短く答える。

「俺じゃない。あんずだ。」

胸の奥がそっと温まる。

拓斗は深く息をつき、問う。

「また歌うのか?」

蓮は窓の外の雨を見ながら答えた。

「歌うかどうかじゃない。——歌えるようになってきただけだ。」

雨音の向こうで、息がひとつ静かに整った。

私はレシピ帳に書き足す。

白木耳:声ではなく“息”を思い出させる。
焦りを静める料理。
声を急がず、心が追いつくのを待つ。

蓮はまたギターを取り、先ほどより少し深い声で歌い始めた。
その声はまだ完全ではない。
でも確かに——ここにあった。

雨の夜、《喫茶つむぎ》に静かな灯りがともった。

今日の薬膳ミニ知識

白木耳(しろきくらげ)
肺を潤し、喉の乾燥や声枯れに良い。
また、心の高ぶりや緊張を静め、睡眠の質を整える働きがあります。
百合根:心を落ち着け、不安感や焦りによる息苦しさを和らげます。
梨:乾燥した喉や声枯れを潤し、咳や熱感をやさしく鎮めます。
蜂蜜:喉を保護し、潤いを長く保つサポートに。

→ これは“声を治す”料理ではなく、声が戻る前に心と体が休まる余白をつくる薬膳です。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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