第34話 龍眼粥

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龍眼粥と灯らない夜

夜の《喫茶つむぎ》は、いつもより少し暗かった。
脚立の上で、オーナーの蓮がぶら下がった丸い電球を指先でつついている。

「……寿命だな。はい、交換。」

カチリ、と新しい電球を回し込むと、ふわりと温かな光が戻った。
そのタイミングで、扉のベルが軽く鳴る。

「あ、こんばんは。」

入ってきた青年は店内をひとまわり見渡し、軽く会釈した。
眠そうというより、考えごとで頭がいっぱいの顔だ。

「コーヒーお願いします。」
柔らかな声でそう言って、カウンター席へ。

私は返事をしつつ、(誰かに雰囲気が似てる……)と首を傾げた。
やがて青年はマグを受け取り、苦笑混じりに名乗る。

「宮下透といいます。……本屋やってます。
朝陽から“なんか落ち着く店がある”って聞いて来ました。」

そう言いながら肩をすくめるように笑う。

「アイツ、小さいころから変わらないんですよ。
外では強そうな顔して、内側はガラス。……昔から知ってます。」

——ああ、なるほど。
“似ている”のは声じゃなく、話すときの迷いの仕草だ。
朝陽さんと同じ、繊細さが背中に乗っている。

マグを両手で包みながら、宮下さんは続けた。 

「最近、寝ても疲れ取れなくて。夢ばっかり見るんです。
仕事で溜め込んだ愚痴を、夢の中の自分が勝手に叫んでて……

……“自分で解決しろ!”って言った瞬間に目が覚めました。」

自分で言っておきながら、笑いが漏れた。

「現実じゃ絶対言わないのに……夢の中のほうが本音言えるなんて、変ですよね。」

そしてまた、堪えるように小さくあくび。

 「なんか胸のあたりがずっと重くて。
うっかりミス増えるし、食欲もないから元気出ない——気がします。」

私はゆっくり頷いた。

「朝陽さんのことは……ここに来る前と後の変化で、気づきました?」

宮下さんは意外そうに目を丸くした。

「……わかります? あいつ、別人みたいに息がしやすそうで。」

——薬膳は薬じゃない。
でも、人が立ち止まるきっかけにはなる。

私は少しだけ前のめりになり、優しく伝える。

「宮下さんの状態は“無理をしながら走ってきた心と体が、休みたがっているサイン”です。
そんな時は、強い刺激より……“静かに支える食事”が合います。」

宮下さんの表情が、ほんの少し緩んだ。

「静かに……支える。」

私は棚から乾燥した龍眼を取り出し、小さく見せる。

「夜に合う食材です。
優しい甘さで、疲れた心と体をゆっくり落ち着かせてくれます。」

「……食べてみたいです。」

鍋に火を入れ、米と水と龍眼を落とす。
ふわりと香りが立ち上がり、灯りの戻った店内に沁みていく。

静かな湯気の音の中、蓮が工具箱を片づけながらぽつりと言った。

「龍眼粥か。腹も灯りも、急がなくていい。
そのうち……なるようになる。」

 宮下さんは吹き出し、肩を揺らした。

「朝陽が言ってた“妙に沁みる言葉の店”って……これか。」

やがて龍眼粥をテーブルに置くと、宮下さんはひと口。
驚いたように目を軽く開く。

「……やさしい味ですね。
なんか……胸のあたりの力が抜けてきます。」

声が少し低く、落ち着いた層に変わっていた。

帰り際、コートを着ながら小さく言う。

「また来ます。……この感じ、しばらく忘れてたので。」

扉が閉まるころ、店内には湯気の余韻と、
蓮のひとことが静かに残っていた。

——焦らなくていい。
休むことも、前に進むうちのひとつだ。

今日の薬膳ミニ知識

龍眼(りゅうがん):疲れやすさや不安感をやわらげ、眠りの質を整える。
百合根:緊張や胸のざわつきをしずめ、呼吸と気持ちを落ち着かせる。
蜂蜜:喉と心に潤いを与え、やわらかな安心感を作る。消化にもやさしい。

→ 焦らず、ゆっくり満ちていくものほど、心に長く灯り続ける。
 そんな夜に寄り添うのが、龍眼粥です。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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