第33話 金柑シロップ

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金柑シロップとミキサーのノイズ

午前中の《喫茶つむぎ》。
曇りガラス越しの光が、カウンターをやわらかく照らしていた。
私はレシピ帳を開き、昨日の続きに目を落とす。

《金柑——開鬱・化痰・寛胸》

走り書きのような文字が残されている。
「開鬱……気をほどく?」
呟きながら、鍋に薄く切った金柑を浮かべた。

酸味が強い。
蜂蜜を足すと今度は甘くなりすぎて、軽やかさが消える。
——“巡り”を良くする味って、どんなだろう。

ため息をついたとき、カウンターの奥から蓮が声をかけた。
「考えすぎると、味が止まるぞ。」
「止まる?」
「流れを見ろってことだ。詰まったら一度、手を離す。」

そこへ、扉のベルが鳴った。
黒いキャップをかぶった男性が入ってくる。
肩にはケーブルバッグ。ジャンパーの袖口が少しほつれていた。

「おはようございます」
「こんにちは。朝陽さんのお知り合いですよね?」
「ええ、PAの真柴といいます。近くでライブ準備してるんですが……
照明担当が体調不良で、急きょ兼務することになって。
なんだか身体が重くて、息も詰まる感じなんです。」

真面目そうな声に、少し疲れの色が混じっていた。
私は笑って言った。
「それは大変でしたね。少し休んでいってください。
金柑のシロップをお出しします。香りが気持ちを軽くしてくれますよ。」

湯を注ぐと、甘酸っぱい香りがふわりと広がった。
彼は両手でカップを包み、ひと口飲む。
「……あ、胸のあたりが少し楽になりますね。さっきまで息が浅かったんです。」

「それは良かったです。香りのあるものは、呼吸を整えてくれますから。」
真柴は少し照れたように笑った。
「単純に“おいしい”ってだけでも、気が抜けますね。」

ちょうどそのとき、厨房の奥から「ブツッ」と音がして、BGMにノイズが混じった。
「またですか……」
私は慌ててスイッチを確認したが、原因がわからない。

「ちょっと見てもいいですか?」
真柴が軽く手を上げ、配線のあたりを覗き込む。
「暖房とオーディオ、同じタップに入ってますね。これ、電気が取り合いになってノイズが出るんです。」

彼は慣れた手つきでコードを分け、スイッチを入れ直した。
途端に、BGMのノイズが消える。
ピアノの音が静かに店内を満たした。

「はい、これで大丈夫です。」
「助かりました……」
私は胸をなで下ろす。

真柴は笑いながら、もう一度金柑シロップを飲んだ。
「音が濁ると、胸まで詰まる気がするんです。
だから、こうやってスッと抜けると、体まで軽くなる。」

蓮がカウンターの向こうからコーヒーをすすり、静かに笑った。
「なるほどな。人も音も、余裕がないと詰まるんだ。」

「ほんと、それですね。」
真柴はカップを見つめ、ぽつりとつぶやいた。
「詰まってたの、音じゃなくて、自分の方だったのかも。」

私は頷き、レシピ帳を開いた。
古いインクで書かれた「開鬱」の文字の下に、今日の記録を添える。

金柑=開鬱・化痰。
音も人も、詰まったら一度流れを変える。

インクが乾くころ、金柑の香りがまた静かに広がった。
ページの隅には、かすかに滲んだ文字がある。
——「龍眼」「心」「眠り」。
物語は、まだ続いているようだった。

今日の薬膳ミニ知識

金柑(きんかん):胸のモヤモヤ、胃の張り、ストレスで呼吸が浅くなっている時に良いとされる果実。皮の香りが巡りを助け、気持ちを軽くする。
蜂蜜:酸味や刺激をやわらげ、体と心に“余白”を作るような味わい。飲み物に加えるとやさしい仕上がりに。

→ ノイズが重なると音が濁るように、心も巡らないと重くなる。
 ひと息つく甘さと香りが、流れを整えてくれる。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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