古い手紙と香りの記憶
昼過ぎの《喫茶つむぎ》。
ストーブの火がやさしく揺れ、カウンターにはコーヒーと焼き菓子の香りが漂っていた。
ランチの片づけを終え、静かな午後。
あんずは帳簿をまとめながら、差し込む陽だまりの中で小さく伸びをした。
そのとき、郵便受けの音が「カラン」と鳴った。
あんずが取りに行くと、手のひらほどの古びた封筒が一通。
宛名は、流れるような筆跡でこう記されていた。
《喫茶つむぎ 店主・つむぎ様》
「つむぎさん宛てです。差出人は“記載なし”ですね」
あんずが封筒を差し出すと、つむぎさんは意外そうに眉を上げた。
「心当たりはないけれど……」
そう言いながら、そっと封を開ける。
中には、一枚の古い紙と、小さな栞のような切れ端。
紙には、かすれた文字でこう書かれていた。
“香りを聴け”
「これは……」
つむぎさんは指先で紙の端をなぞった。
その表情には、懐かしさと戸惑いが入り混じっていた。
「昔、ある人と一緒に試作していたレシピのメモに似ているの。
でも、その人はもう店を離れて久しいのよ。」
「レシピ……ですか?」
あんずが問い返すと、つむぎさんは静かに微笑んだ。
「“香りで癒やす料理”を作ろうとしていたの。
けれど、途中で形にならなかったのよ。
懐かしいわね——“香りを聴け”なんて、あの人の口ぐせだった。」
つむぎさんは封筒を閉じ、紙切れをそっとあんずに手渡した。
「よかったら、あなたが続きを聴いてみて。」
その紙の端には、古いノートを破ったような跡があった。
どこかに“本体”が存在するかもしれない——そんな予感が胸をかすめた。
夜。店内が静まり返ったあと、あんずはカウンターで紙切れを見つめていた。
“香りを聴け”——その言葉が、妙に心に残って離れない。
栞の紙面には、うっすらと「八角」「棗」「生姜」と書かれている。
香辛料と薬膳素材。おそらく、古いスープのレシピだ。
「……香りで癒す、か」
呟きながら、あんずはそっと棚の奥を探った。
そこには、年季の入った革表紙のノートが眠っていた。
埃を払いながら開くと、古い紙片と同じ破れ跡がぴたりと重なった。
——まるで、長い時を経て再び出会うために待っていたように。
そのページの余白には、薄く鉛筆で書かれた文字があった。
「香りで人を癒やす薬膳スープ」
あんずはしばらくその文字を見つめ、静かに息をのんだ。
いつか、つむぎさんが語っていた——
「食には、人をめぐらせる力があるのよ」という言葉を思い出す。
「この味、きっと残したい」
あんずはそっとノートを閉じ、翌朝、このレシピを再現することを心に決めた。
ストーブの火がやわらかく揺れ、
窓の外では、雪解けのしずくがぽとりと落ちた。
静かな店内に、かすかなスパイスの香りが漂っていた。
——香りを聴け。
その言葉は、あんずの心に小さな火をともした。
今日の薬膳ミニ知識
八角(スターアニス):冷えや胃の重さをやわらげ、体をあたためるスパイス。少量でも香りが広がり、気分をほぐす力がある。
棗(なつめ):疲れ・不眠・ストレスに寄り添う「やさしい補いの食材」。気持ちが落ち着き、呼吸が深くなる。
生姜:体を中から温め、巡りを良くしてくれる。冷えがあるときの味方。
→ 香りは、体だけでなく心にも届く。
思い出す香りがあるように、薬膳でも香りは“巡りを戻す鍵”になります。
スターアニス ホール 100g×2袋 GABAN スパイス (メール便)粒 香辛料 業務用 八角 ギャバン 調味料 乾燥 高品質 価格:1496円 |
価格:1380円 |
