第27話 参鶏湯風スープ

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参鶏湯風スープと年末の温もり

夕暮れの《喫茶つむぎ》。
ガラス越しの通りには、買い物袋を下げた人々が足早に行き交っていた。
年末特有のざわめきと、黒豆を煮るやさしい甘い香りが店内を包んでいる。

「……寒い~!」
ベビーカーを押して入ってきたのは沙織。
「今日は陽翔が昼寝してくれたから、やっと外に出られたの」
と笑うが、頬は冷えきっている。

そのすぐ後、ノートPCを抱えた翠が入ってきた。
「年末進行で徹夜続きです……頭も胃も冷えてる気がして」

二人がカウンター席に並んで腰を下ろしたとき、
壁の黒板メニューに描かれた「本日の日替わり」を見つけた。

《参鶏湯風スープ(サムゲタン)》
その文字を見た瞬間、二人の声が重なった。
「これにします!」

あんずは微笑み、厨房へ向かう。
「ちょうど仕込み中です。体がぽかぽかになりますよ」

鍋に鶏もも肉、生姜、にんにく、棗を入れて、
じっくりと煮込む。
湯気の中で香りが混ざり合い、甘くてやさしい空気が広がった。

翠がカウンター越しにのぞきこむ。
「参鶏湯って、おうちでも作れるんですか?」

あんずはうなずく。
「本格的には丸鶏と高麗人参を使いますが、
今日は鶏もも肉と生姜で簡単にアレンジしています。
おうちなら炊飯器でも作れますよ」

「炊飯器で!?」と沙織が驚く。
「はい。鶏肉、生姜、にんにく、棗を入れて“おかゆモード”で炊くだけ。
塩を控えめにして、仕上げにごま油を数滴――
最後にクコの実を散らせば、彩りも栄養も完璧です。」

翠が目を輝かせた。
「それなら私でもできそう! 明日やってみます」
沙織も笑ってうなずく。
「うちも炊飯器、最近ご飯以外で出番がないから助かる~」

そのとき、奥からつむぎさんの声がした。
「……あら、黒豆の鍋、少し焦げたみたい」
ほのかに香ばしい匂いが漂う。

翠が笑う。
「焦げの香りって、なんか“年末”って感じしますね」
沙織も頷く。
「うちも、毎年おせちのどれかを焦がすの」

つむぎさんは黒豆をかき混ぜながら微笑んだ。
「焦げも冷えも、どっちも“火加減”が大事。
人の体も同じね。温めすぎず、冷ましすぎず――ほどよい温度で過ごすのがいちばんよ」

スープが完成した。
黄金色のスープに、赤いクコの実と棗が浮かぶ。
ひと口すすると、体の奥からふんわりと熱が広がっていく。

「……おいしい。胃が動き出した気がします」
「私も、足の先まで温かい……」

あんずは微笑んで言った。
「温めるって、“気を満たす”ことでもあるんですよ。
焦らず、少しずつ巡らせてあげるのが一番です」

窓の外には冬の風。
けれど《喫茶つむぎ》の中には、参鶏湯の湯気と笑い声がやさしく満ちていた。

今日の薬膳ミニ知識

・鶏肉:補気・補陽。体を温め、疲労回復に◎。
・棗(なつめ):血を養い、心を落ち着ける。冷え性や不眠に。
・生姜:体を芯から温め、胃腸を整える。冷えや食欲不振に。
・クコの実(枸杞子):肝と腎を補い、美肌や目の疲れに。
 煮込みすぎず、仕上げに散らすのがポイント。
・にんにく:温中・散寒・解毒。寒冷で縮こまった体をゆるめる。

→ 冬から春へ向かう時期は、体の“火”が弱りがち。
 「温めて補う=温補」で、心も体もやさしくリセットしましょう。

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この記事を書いた人

国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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