第6話 白きくらげ

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白きくらげと雨の面影

昼過ぎの《喫茶つむぎ》。
窓の外ではしとしとと雨が降り続き、ガラス一面に細い水の筋が走っていた。
私はカウンターの布巾をしぼり、鍋でゆらゆらと透きとおる白きくらげを煮ていた。
ココナッツミルクと合わせれば、潤いの甘いデザートになる。

扉のベルが鳴り、傘をたたんで入ってきたのは常連の真理子さんだった。
40代に見える彼女は美容意識が高く、服装もきちんとしている。
けれど今は窓ガラスに映った自分の顔を見て、目の下を指先で軽く触れていた。

「……乾燥して、小じわが目立つのよね」
小さなため息とともに、独り言がこぼれる。

私は声をかけた。
「お疲れですね。今日は白きくらげのホットココナッツミルクをどうですか?
体を温めながら潤してくれるので、美容にもぴったりですよ」

真理子さんの表情が少し和らいだ。
「美容によくて、しかも温かい……いいわね」

器を両手で包み、真理子さんは一口飲んだ。
「……優しい甘さ。胃にしみる感じがする」

その瞳が、雨ににじむガラスの向こうへ向けられた。
「雨の日は、子供の頃のことを思い出すの。
図書館から帰る途中、大切にしていた祖母の傘を風に飛ばされてね。
川に流されてしまったの。びしょ濡れになった記憶が、すごく鮮明なのよ」

私は相槌を打ちながら耳を傾けた。

「でも本当は……近くの家の人が助けてくれて、ホットミルクを出してくれたんだって。祖母もすぐ迎えに来てくれたらしいの。
なのに私の記憶の中では、ずっと“傘をなくして雨に濡れた”ままになっていて……不思議よね」

そのとき、カウンターの奥でコーヒーを飲んでいたオーナーの蓮が、ひょいと顔を上げた。
「記憶なんて、濡れたページみたいなもんさ。
大事なところだけにじまず残る。……それが傘かホットミルクかは、人によるけどね」

真理子さんは思わず笑った。
「そういう言い方、ずるいわね」

蓮は肩をすくめ、飄々とした笑みを浮かべた。
「ずるいぐらいが、ちょうどいいんだよ」

雨は止む気配を見せず、窓を流れる水筋がゆっくりと光を映していた。
真理子さんは再び器に口をつけ、白きくらげの甘みを確かめるように飲んだ。
その横顔は、さっきよりもずっとやわらかかった。

【今日の薬膳ミニ知識】

・白きくらげ:潤いを与える代表的な食材。肺や胃腸を潤し、乾燥による肌トラブルや咳に効果的。
・美容食材として知られ、肌の乾燥・小じわ対策にも◎。
・胃腸を守る作用があり、風邪をひきやすいときの体力維持にも役立つ。

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国際中医薬膳師のいろはが薬膳の効果と普段食べている食材にも効能があることをお伝えします。

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