紅花茶とつむぎの過去
冬の朝、《喫茶つむぎ》の扉の前に、一通の封筒が置かれていた。
古びた便箋に、手書きの文字で「つむぎさんへ」とある。
差出人の名を見て、つむぎさんの指先が止まった。
「……八重さん」
その名を聞いたあんずは首を傾げる。
「どなたですか?」
「この店がまだ古本屋だった頃の店主よ。母がよく通っていたの」
つむぎさんは静かに封を切り、中から小袋を取り出した。
中には、乾いた花びら——深い朱を帯びた紅花(こうか)が詰まっていた。
便箋には一文だけ添えられている。
『この花を見て、昔を思い出しました。巡りとは不思議なものですね。』
その文字を指でなぞみながら、つむぎさんのまなざしが少し遠くなる。
「……紅花、ですか?」
あんずがそっと尋ねると、つむぎさんは小さく頷いた。
「母が好きだった花なの。
“動く花”って呼んでいたわ。止まってしまった心を動かす花だって。」
あんずは、カウンターの奥からガラスのポットを取り出した。
「それなら、お茶にしましょう。香りで“巡り”を取り戻す時間です。」
湯を注ぐと、紅花の朱がゆっくりと広がっていく。
金色の液体が少しずつ赤みを帯び、
やがて夕焼けのような色に染まった。
ふわりと立ちのぼる香りに、つむぎさんは目を細める。
「……母がよく言ってたわ。
“紅花は、冷たくなった心をあたためる花”。
だから冬に飾るのよって。」
扉のベルが鳴き、蓮が入ってきた。
「珍しい香りだな。……ああ、紅花か」
彼は封筒を手にしていた。
「配達間違いで、うちに届いてた。お前宛ての手紙だ」
つむぎさんが受け取って開くと、
中にはもう一枚の便箋が入っていた。
『紅花は乾いたままでは咲きません。
温かいお湯の中でこそ、花開くのです。
どうかあなたの時間も、温もりの中で動き出しますように。』
つむぎさんは静かに目を伏せ、
しばらくしてからふっと笑った。
「……八重さんらしいわ。
母を看取ったとき、この店を閉めるか迷ったの。
でも、止まっていたのはきっと、私のほうだったのね。」
あんずはそっとカップを差し出した。
「その“温もり”を少しずつ戻していきましょう。
紅花茶は、冷えや滞りをほぐしてくれます。」
蓮が頷く。
「血も心も、止めっぱなしじゃ枯れるだけだ。
動けば、また音が戻る。」
つむぎさんは笑いながら紅花茶を口に含んだ。
「……ほんのり苦いけど、懐かしい味。
苦みがあるから、優しさが沁みるのかもしれないわね。」
店内を包む紅い湯気が、
まるで止まっていた時間をやさしく溶かしていくようだった。
今日の薬膳ミニ知識
・紅花(こうか):活血化瘀。血の滞りを解き、冷え・肩こり・月経痛・くすみなどを改善。
体を温めて血行を促進し、心の“巡り”を整えます。
・香り成分:ストレス緩和・感情の停滞をやわらげる。
・禁忌:妊娠中・月経過多・出血傾向の方は避ける。
・ブレンド例:ローズ・陳皮・ジャスミンなどと合わせると穏やかで飲みやすい。
・飲用目安:1日小さじ1杯分(約150ml)。濃く煮出さず、3〜5分抽出。
→ 「紅花」は“止まった巡りを動かす花”。
体も心も、あたたかさの中でこそ花開きます。
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